連載603 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(下1)

連載603 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(下1)

 

EV1本化はドイツが仕掛けた巧妙な罠

(この記事の初出は6月15日)

 EV1本化は、いま思えば、ドイツの国家戦略である。日本の自動車産業に打ち勝つために仕掛けられた「巧妙な罠」とも言える。

 ドイツはこれまで、世界一厳しい環境対策を行ってきた。そのため、再生可能エネルギーへの転換が進み、2022年には原発を完全に停止することになっている。そのため、ドイツでは当初からEVをエコカーの一番手とし、その開発に傾注してきた。

 しかし、EV1本化に絞ったのには、別の理由が存在する。むしろ、こちらの理由のほうが大きい。それは、トヨタのHEV「プリウス」がドイツの厳しいCO2排出規制を難なくクリアして、ベストセラーになってしまったからだ。

 ドイツのメーカーは驚いてプリウスを研究した。しかし、ドイツの自動車メーカーの技術ではプリウスを超えるクルマをつくれないと判明し、HEVをエコカーとは認めないことに決めたのである。

 折から、ドイツではフォルクスワーゲン(VW)による排ガス不正問題が発覚した。これは、排ガス試験のときにだけ起動するプログラムによって排ガス試験を潜り抜け、走行時には窒素酸化物を垂れ流していたという、きわめて悪質な不正だった。これで、VWの評判は地に落ちた。

 そのためVWは、以後EVに傾注するほかかくなったのである。このことも、ドイツがEV1本化に絞った理由である。

 EVは、ガソリン車のような高い技術力を必要としない。部品数も従来のガソリン車に比べて少ないうえ、モジュール生産ができる。つまり、EVを世界標準にしてしまえば、日本車を排除でき、地に落ちた評判を回復できると、ドイツは考えたのだ。

温暖化対策の切り札とされる「炭素税」

 現在、カーボンニュートラルを進める各国政府が注目しているのが「炭素税」(carbon tax)である。これが、脱炭素社会建設に向けての切り札になり、その資金になると期待している。

 なにより、EUとバイデン政権が創設に熱心なので、日本も早晩に炭素税の創設を迫られることになるだろう。

 炭素税とは耳慣れない言葉だが、その仕組みは単純だ。CO2を多く排出する産業に税を多く負担させ、それにより脱炭素化を進めようというのだ。ただ、この炭素税が国境を超えて実施されると、関税と同じような働きをする。

 地球温暖化対策が不十分な国からモノを輸入する場合、そのモノに対して税金を課す。これが「国境炭素税」(carbon border tax)であり、その税率は、前述した「LCA」、つまり、CO2排出のライフサイクルによる評価によって決められる。 たとえば、 CO2排出量がゼロのEVでも、それを動かす電池の電力が化石燃料発電の場合、そのCO2排出量に応じて課税する。たとえば、EU域内の炭素税率が1トン100ユーロとする。そして、輸出国の炭素税がユーロ換算で1トン50ユーロとすれば、その差額の50ユーロが関税として課せられる。

 もし、EUが国境炭素税を課すことを決めたら、日本車は圧倒的に不利になる。なぜなら、日本の電力は75%が化石燃料による発電でつくられているからだ。

(つづく)

 

この続きは9月8日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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