連載606 山田順の「週刊:未来地図」 「脱炭素」でトクをするのは誰か? なぜ欧米は自滅への道を突き進むのか?(上)
(この記事の初出は7月6日)
コロナ禍が終息に向かえば、次に世界が向かうのは「脱炭素」(カーボンニュートラル)だ。地球温暖化の犯人とされるCO2の排出を、世界全体で協力し合って減らしていこうというのだ。
しかし、そんなことをして、いった誰がトクをするのだろうか? 地球が温暖化しているのは事実だろうが、その犯人が本当にCO2かどうかはわからない。しかし、いまや「CO2削減=脱炭素」は逆らうことができない教義だ。
このまま行けば、欧米世界は衰退し、中国が高笑いすることになりかねない。
原油価格の上昇で高まるインフレ懸念
最近、アメリカでは原油価格が高騰し、それにつられるように消費者物価も上がっている。コロナ禍が終息に向かっているので、需要が戻り、すべての消費が上向くようになってきたからだ。
アメリカの労働省が6月10日に発表した5月の消費者物価指数は、前年同月比5.0%の上昇で、2008年8月以来、約13年ぶりの大幅な伸びとなった。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は、同3.8%の上昇だった。
それにしても、原油価格の高騰ほどわかりやすいものはない。自動車社会のアメリカでは、ガソリンの需要が伸びれば、原油価格は必ず上がる。自動車ばかりではない。減便していた飛行機も元に戻ったのだから、原油価格が上がらないわけがない。
「このままいけば、2014年以来の100ドル突破がありえる」という声も聞こえるようになった。
消費者物価の上昇は、インフレを招く。そのため、FRBのパウエル議長は、早くも火消しに走った。「インフレが一時的であるという見通しには一定の自信がある」と、声明を出した。
日本だけデフレ、今後は悪性インフレに?
このようなアメリカと比べると、日本の現状はお寒い限りである。円安にふれてきたのでガソリン代は上がり始めたが、消費者物価は下がったままだ。デフレが依然として続いている。
総務省が6月18日に発表した5月の全国消費者物価指数は、総合で前年同月比マイナス0.1%、生鮮食料品を除く総合で同プラス0.1%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合でマイナス0.2%だった。
コロナ禍で縮んでしまった経済は、コロナ禍が終息しても元に戻らないのではないか。円安が進めば、輸入物価は上がる。それで消費者物価も上がるかもしれないが、それは悪性インフレにすぎないと言われるようになってきた。
日本だけが、異常な経済情勢を続けており、この傾向は変わりそうもないのである。
ただし、この先、長い目で見れば、世界の原油価格は下がるという見方が有力だ。コロナ禍の終息とともに、世界経済はインフレ基調になるが、原油価格は下がるというのだ。
その理由は、いま世界が大きな流れとして「脱炭素」(カーボンニュートラル)に向かっているからである。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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