連載614 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(下)
(この記事の初出は8月3日)
いまや「中国リスク」が株価に反映する
日本にとって中国は、2007年以降、輸出入総額でトップを占め続けているもっとも重要な貿易相手である。
この6月、ジェトロは、日本の財務省貿易統計と中国の海関(税関)統計を基にした2020年の日中貿易を双方の輸入ベースで見た統計を発表した。それによると、貿易総額は前年比0.2%減の3401億9478万ドル(約37兆円)。コロナ禍により前年比で減少したものの、その減少幅は小さく、日本全体の貿易に占める中国の比率は、なんと過去最高となっている。
これでは、日本が中国デカップリングに踏み切れないのも無理はない。
しかし、最近の株式市場を見ると、そうは言っていられない状況になりつつある。中国依存度の高い企業の株価が低迷するようになってきたからだ。
ここ2、3カ月、日経平均は足踏みを続けている。その原因と見られるのが、日経平均の算出に大きな影響力を持つ「値がさ株」のソフトバンクとファーストリテイリングの株価である。
ソフトバンクは、ビジョンファンドを通じて多くの中国企業に投資を行っているが、この点が海外投資家に嫌われた。ファーストリテイリングも同じで、ユニクロが新疆ウイグル自治区の綿を使用している疑いが出てから、株価は低迷している。
中国に投資している企業の株価が低迷するのは、世界的な傾向で、この傾向は今後も続くのは間違いない。
中国の圧力に屈しないオーストラリア
対中貿易は一種の「麻薬」と言える。どんなに中国が脅威であっても、依存を続けるしかない国は世界に数多くある。日本やドイツばかりではない。ASEAN諸国、アフリカ諸国なども、中国が提供する麻薬から抜け出せない。
しかし、クアッド参加国のオーストラリアは、日本やドイツとは違う姿勢を示してきた。対中貿易・投資に大きく依存しているにもかかわらず、公然と中国批判を続けてきた。
オーストラリアの輸出に占める中国比率は、なんと39%で、アメリカは4%未満である。それにも関わらず、オーストラリアはアメリカと完全に歩調を合わせている。
オーストラリアは、香港と新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判し続けている。また、いち早く華為技術(ファーウェイ)を5G通信網から排除した。さらにコロナに関しては、ウイルスの起源について独立調査を中国に要求した。
怒った中国は、反撃に出た。常套手段となった貿易での圧力を次々に発動。オーストラリア産のワインに最大200%超、大麦に80%の反ダンピング関税をかけた。さらに、牛肉も一部輸入停止にし、石炭の荷揚げも差し止めた。
しかし、オーストラリアは屈していない。アメリカとは「アンザス条約」(ANZUS Treaty)を結び、旧英連邦の一員であるから、モリソン首相はそれを後ろ盾にして強気なのである。
すでに英国は、EU離脱後に立案した「グローバルブリテン」(Global Britain)という新しい戦略構想で動いている。ドイツが支配するEUとは一線を画して、地政学で言うところの「シーパワー」としてサバイバルしていこうとしている。
日本もシーパワーであり、アメリカは世界最大のシーパワーである。これに対して、中国、ロシア、ドイツは「ランドパワー」である。とすれば、日本が米中覇権戦争のなかで、どう生きていくべきかは自明であろう。
(つづく)
この続きは9月23日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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