連載615 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(完)

連載615 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(完)

(この記事の初出は8月3日)

中国の圧力に屈しないオーストラリア

 対中貿易は一種の「麻薬」と言える。どんなに中国が脅威であっても、依存を続けるしかない国は世界に数多くある。日本やドイツばかりではない。ASEAN諸国、アフリカ諸国なども、中国が提供する麻薬から抜け出せない。

 しかし、クアッド参加国のオーストラリアは、日本やドイツとは違う姿勢を示してきた。対中貿易・投資に大きく依存しているにもかかわらず、公然と中国批判を続けてきた。

 オーストラリアの輸出に占める中国比率は、なんと39%で、アメリカは4%未満である。それにも関わらず、オーストラリアはアメリカと完全に歩調を合わせている。

 オーストラリアは、香港と新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判し続けている。また、いち早く華為技術(ファーウェイ)を5G通信網から排除した。さらにコロナに関しては、ウイルスの起源について独立調査を中国に要求した。

 怒った中国は、反撃に出た。常套手段となった貿易での圧力を次々に発動。オーストラリア産のワインに最大200%超、大麦に80%の反ダンピング関税をかけた。さらに、牛肉も一部輸入停止にし、石炭の荷揚げも差し止めた。

 しかし、オーストラリアは屈していない。アメリカとは「アンザス条約」(ANZUS Treaty)を結び、旧英連邦の一員であるから、モリソン首相はそれを後ろ盾にして強気なのである。

 すでに英国は、EU離脱後に立案した「グローバルブリテン」(Global Britain)という新しい戦略構想で動いている。ドイツが支配するEUとは一線を画して、地政学で言うところの「シーパワー」としてサバイバルしていこうとしている。

 日本もシーパワーであり、アメリカは世界最大のシーパワーである。これに対して、中国、ロシア、ドイツは「ランドパワー」である。とすれば、日本が米中覇権戦争のなかで、どう生きていくべきかは自明であろう。

「グローバルトレンド」による2040年の世界

 アメリカの国家情報機関「NIC」(National Intelligence Council)は、4月に「グローバルトレンドGT2040 」というバイデン政権の長期戦略を公開した。そこには、2040年の世界について、次の5点のシナリオが提示されていた。

(1)民主主義の復活:アメリカを中心とする民主主義国家が覇権的リーダーの存在を強化し、経済が成長し社会が安定する。

(2)漂流する世界:中国とアメリカを中心とする民主主義国家と勢力争いで世界は分断され安定しない。

(3)競争的共存:アメリカと中国が経済発展を優先し、強固な貿易関係が継続し、戦略的競争が存在する。大戦争のリスクは低い。

4)分離したサイロ:世界はアメリカ、中国、EU、ロシアなど複数の地域大国に分断され、核兵器は拡散する。

(5)悲劇と流動化:アメリカの凋落で中国とEU主導の世界になる。

 このうち、もっとも望ましいのは、(1)である。(2)~(5)は、日本にとっては耐え難いシナリオである。世界がアメリカ覇権の下で安定し、平和であってこそ、日本も安定し、平和でいられるからだ。

 現在、中国はアメリカが仕掛けた中国デカップリングに対抗して、「双循環」(2つの循環)と呼ぶ政策を進めている。「双循環」とは「国内循環」と「国際循環」の2つの循環を指す。つまり、国内循環である内需に重点を置き、国内のサプライチェーンや技術を強化して産業を発展させ、それによって国際的な好循環を生み出すというのだ。

 中国は共産党政府樹立100周年までに世界一の帝国になることを目標としている。つまり、「双循環」は中長期的な「持久戦」の構えである。とすれば、今後、日本は覚悟して対中包囲網の一員となっていかねばならない。そうしなければ、世界は中国が主導する中国第一だけの世界になってしまう。

(了)

 

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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