2025.02.11 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊 未来地図」トランプ獲得発言で注目のグリーンランド。しかし、氷が溶けたら危ないのはアメリカだ!(上)

 大統領就任が間近となり、“舌好調”となったトランプの「グリーンランドが欲しい」発言。世界中から呆れられたが、一理も二理もあると、メディアや評論家は解説している。それは、トランプが求めるアメリカの安全保障が担保されるのはもちろんのこと、温暖化でグリーンランドが「宝島」になるからだ。
 具体的には、レアアースなどの資源が採掘可能になる。北極海航路が開ける。触手を伸ばしている中国を排除できるなどのメリットが挙げられる。
 しかし、温暖化が進んで氷が溶けたら、危ないのはアメリカ本土だ。ニューヨークやサンフランシスコなどの海に面した大都市は水没してしまう。トランプは“化石アタマ”で、目先のことしか考えていない。
 *なお、本稿と同主旨のコラム記事をすでに「Yahoo!ニュース」に寄稿しています。本稿は、それをさらに詳しくしたものです。

レアアースが眠るグリーンランドは「宝島」

 まず、一気に注目されるようになったグリーンランドだが、トランプは不動産屋としてのアタマで「宝島」だと考えているようだ。今回の発言以前にも、何度も購入意欲を表明しているからだ。
「アメリカの国家安全保障上必要だ」というのが最大の理由だが、トランプはグリーンランドがレアアースの宝庫であること、北極航路の重要性もわかっている。
 1月7日の会見では、「ロシアや中国の船が(グリーンランド周辺に)うようよいる。双眼鏡を使うまでもない」と述べている。
 実際、中国はこれまで、グリーンランド自治政府に対して、レアアースの採掘権を求めてアプローチを強めてきている。グリーンランドに眠るレアアースは、ニッケルをはじめ、コバルト、銅、プラチナ、チタンなど、EV、次世代電池、半導などに欠かせないものだ。また、ウランも豊富にあるとされ、まさに天然資源の宝庫だが、まだ、採掘されていない。
 さらに、温暖化が進めばグリーンランドを周回する北極海航路が開ける。そうなると、アメリカ西海岸から東海岸や欧州に向かう船舶は、パナマ運河を使わなくてもよくなる。中国もロシアも、この北極海航路には強い関心を示し、すでにアクションを起こしている。

「中世温暖期」は牧畜ができる緑の島だった

 トランプは以前から「地球温暖化はフェイクだ」と言ってきた。カーボンニュートラルにはまったく関心を示さず、前政権では「パリ協定」から離脱し、今回の大統領選では化石燃料に対して「掘って、掘って、掘りまくれ!」と発破をかけてきた。
 それなのに、地球温暖化を前提として、グリーンランドに目をつけるのは矛盾してはいないか。
 地球温暖化はフェイクではない。これまで地球は温暖化と寒冷化を繰り返してきており、今回の温暖化は19世紀以降の産業革命による人為的なものであることは、すでにほぼ証明されている。
 そこで、グリーンランドについて見ていくと、この世界最大の島がかつて本当にグリーン(緑)だったことがある。それは、9世紀〜14世紀の約500年間の「中世温暖期」という一時期のことだ。
 この時期、グリーンランドに入植したバイキングたちは、3つの入植地でヒツジやヤギの牧畜を営み、アザラシやセイウチなどの狩猟を行っていた。この入植地には、巨大な石造聖堂が建っていた。

バイキングの遺跡の年代が特定される

 すでに周知のことだが、アメリカ大陸を発見したのはコロンブスではない。アメリカ大陸に最初に到達したヨーロッパ人は、バイキングである。2021年10月、ロイターなどのメディアが、「バイキングの活動年代、初特定 名古屋大学の発見が貢献」という内容の記事を配信した。
それによると、カナダのニューファンドランド島にある「ランス・オブ・メドー遺跡」(世界遺産に登録されている)がつくられた年代が特定され、その特定の決め手となったのが、名古屋大学の三宅芙沙准教授らが発見した大気中の放射性炭素(C14)濃度が急上昇するという現象だった。
 C14は、銀河宇宙線や太陽から飛来する高エネルギー粒子が大気に衝突して発生し、CO2の一部として光合成で木に取り込まれる。このCO14が993~994年に急上昇していることを三宅准教授らが発見し、それから、木を調べれば年代を特定することが可能になったという。  
 ランス・オブ・メドー遺跡というのは、バイキングが大西洋を渡って、カナダに定住した証拠となる遺跡。コロンブスの新大陸発見よりはるか昔の話で、今回、その年代の特定にあたったのは、オランダのフローニンゲン大学やカナダ国立公園局などの研究チームで、彼らは遺跡から得られた木片を調べ、それが1021年に金属の刃で切断されたものと断定したのだった。

入植地では約5000人の人々が暮らしていた

 1021年といえば、いまから約1000年も前。
 そんな時代になぜ、バイキングがアメリカ大陸に渡ったのか? それは、この時期、地球の気候はいまよりはるかに温暖だったからだ。 これが「中世温暖期」である。 この時期は、ノルウェーでもワインが生産されていたという(現在のブドウ栽培の北限はドイツ)。
 860年ごろ、バイキングはノルウェーからアイスランドに進出し、さらに982年ごろ、アイスランドからグリーンランドに植民した。そうして、前記したように、3つの入植地をつくり、約5000人の人間がグリーンランドで暮らしていた。
 北欧古代文学の『グリーンランド人のサガ』によると、985年にビャルニというバイキングの男がアイスランドからグリーンランドに向かう途中に漂流し、見知らぬ土地を目にしたとされている。 そこが、カナダのニューファンドランドだった。
 その後、992年、ライフ・エリクソンとうバイキングの男がビャルニの見た土地への探検を思い立ち、仲間35人と出発して、ヴィーンランド(葡萄の地)、現在のニューファンドランドにたどり着いた。こうして、バイキングはカナダで暮らし始め、漁労、牧畜を行い、村をつくったのである。
 しかし、中世が半ばになると気候は寒冷化し、バイキングたちは村を捨て、新大陸を去った。グリーンランドの入植地も1400年代には放棄された。現在、グリーンランドは人口約5万8000人、元々の住民であるイヌイットの島(デンマークの自治領)である。

この続きは2月13日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

山田順の「週刊 未来地図」その他の記事
山田順プライベートサイト

RELATED POST