連載617 山田順の「週刊:未来地図」 コロナ禍のなかで起こっている2極化インフレ、富裕層の「資産シフト」が進んでいる(中1)

連載617 山田順の「週刊:未来地図」 コロナ禍のなかで起こっている2極化インフレ、富裕層の「資産シフト」が進んでいる(中1)

 

新築「億ション」は販売即完売続き

 マンション市場も好調だ。不動産価格は全国規模で低迷し、地価も下落を続けているのに、大都市圏の新築マンション、とくに「億ション」は逆に値上がりしている。

 都心の場合、コロナ禍でオフィス需要が低迷し、海外投資家も去ったというのに、新築マンションの平均価格は過去4年連続で上昇した。2020年にはバブル期の1990年以来の6000万円台に乗せ、2021年4月には7764万円まで上昇した。

 一時は「オリンピック需要」などと言われたが、いまや「コロナ需要」と言い換えてもいい状況だ。

 相場を引き上げている最大の原因は、売り出し件数の減少とされる。2020年に首都圏で発売された新築マンションは3万戸を割り込み、バブル崩壊後の1992年以来最低を記録している。販売価格が1億円以上で坪単価が1000万円以上の超高級物件は、ここ数年、2000戸ほどしか売り出されていない。

 その一つ、三井不動産の最高級物件「パークコート渋谷・ザ・タワー」は、最上階の居室は広さが200平方メートル超で価格は15億円台。2018年に販売が開始されるとあっという間に完売し、今年の1月から入居が始まった。

 入居したある地方の資産家によると、「眼下に明治神宮と代々木公園が臨め、絶好のロケーション。いずれ都心に住もうと思っていたので、売り出しと同時応募した」と言う。

 不動産経済研究所によると、2020年に売り出された億ションは1818戸。最高額は野村不動産が手掛けた「プラウド代官山フロント」の6億9000万円で、ここも売り出しと同時に完売している。

金融緩和マネーが富裕層に回っている

 こういう現象を目にすれば、世の中はコロナ禍によって不景気だと言われているのが、なにかの間違いではないかと思われるだろう。しかし、高級品市場においては、本当に景気はよく、インフレが進んでいるのだ。

 では、なぜ、こんなことが起こっているのか?

 そのカラクリは、じつに単純で、最大の原因は、日銀による量的金融緩和が続いているからだ。コロナ禍は、これを加速させた。

 つまり、いま世の中は中央銀行が刷りまくったおカネで溢れており、そのほとんどが富裕層に回っていて、富裕層はそれを株式市場や高級品市場で使っているのである。

 野村総合研究所の調査によると、日本の富裕層はここ数年増加している。

 2019年度で、「超富裕層」(純金融資産保有額が5億円以上)と「富裕層」(1億円以上5億円未満)を合わせると132.7万世帯となり、毎年、世帯数が増えている。しかも、保有金融資産の額も増えている。超富裕層は2017年比で13兆円、富裕層も21兆円増やしている。こうしたなか、コロナ禍が起こり、さらに金融緩和が進んだので、富裕層経済は大いに潤ったのだ。

 日本の富裕層は人口の約2.5%で、その金融資産額は日本全体の金融資産の21.4%を占めているとされている。超富裕層は1人当たり平均で11.15億円の金融資産を持ち、富裕層は1.9億円の資産を持っている。彼らが、いま、消費の主役となり、インフレを招いているのだ。

(つづく)

 

この続きは9月28日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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