連載619 山田順の「週刊:未来地図」 コロナ禍のなかで起こっている2極化インフレ、富裕層の「資産シフト」が進んでいる(下)

連載619 山田順の「週刊:未来地図」 コロナ禍のなかで起こっている2極化インフレ、富裕層の「資産シフト」が進んでいる(下)

(この記事の初出は8月10日)

一般物件と違って高級物件は値上がり

 アメリカもまた、富裕層の消費が勢いづいている。ニューヨークでは、たしかに物価が上がり出したが、それを牽引しているのは、やはり富裕層だ。

 たとえなにがあろうと、絶対に下がらないとされているのが、ニューヨークの不動産価格。実際、コロナ禍になって、一般賃貸物件の価格は下がったが、高級物件はまったく影響を受けなかった。
 たとえば、ジェニファー・ロペスなどのセレブが住んでいたことで知られる「432 パークアベニュー」の1室が1億7000万ドル(約188億円)で売り出されたと「ウォール・ストリート・ジャーナル」(8月6日)が伝えた。

 その記事によると、この物件の持ち主のサウジアラビアの富豪は、2016年にこの1室を8760万ドルで購入したという。広さ約740平方メートルの部屋は、6つのベッドルームと7つのバスルームを持ち、96階の窓からニューヨークのスカイラインを360度見渡すことができる。

 「432 パークアベニュー」は破格として、この5月には「セントラルパークサウス220」の3ベッドルームの物件が、3300万ドルで購入されている。この価格は前オーナーが2019年に支払った金額を約25%上回っていたという。

 不動産調査の「ストリート・イージー」によると、2021年1~3月期のマンハッタンの家賃の中央値は前年同期比17%減の月額2700ドル。これは集計を開始した2010年以来で最低だった。このように一般賃貸物件は、高級物件と違ってコロナ禍で下落したのである。

 ところが、この5月から急回復し、4月に比べて8.8%上昇すると、その後も上昇を続けている。

 大学生やオフィスワーカーが戻ってきて、需要が増したからと言われている。昨年は「さよならNY」と、多くの企業がオフィスをマンハッタンから移転させるとしたのに、急に方針転換。ウオールストリートでは、シティグループ、JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックスが、サテライトオフィスから従業員を呼び戻すことを決めている。

現在のインフレは「デマンド・プル」型か?

 ワクチン接種が進むなか、世界中で進み始めたインフレは、はたしていいインフレなのか?悪いインフレなのか?まだ、見極めがつかない。

 しかし、物価上昇とともに賃金が上がらなければ、インフレは庶民生活を苦しめる。富裕層にとっても、現金資産の大幅な目減りを招く。

 そこで、インフレが起こる原因を挙げてみると、経済学で言われているのは、次の3種類。需要が増加することによって引き起こされる「デマンド・プル・インフレ」、生産コストなどが上昇することによって発生する「コスト・プッシュ・インフレ」、貨幣の供給量が大幅に増加して発生する「金融緩和インフレ」の3つである。

 このうち、「デマンド・プル・インフレ」がいちばん普通のインフレで、需要が供給を上回ったときに起こる。この場合は、経済が過熱して物価が上昇する。日本だと1980年代のバブル景気、アメリカだとリーマンショック前までがこのパターンだ。この状況のときは、好景気であるため、消費も活発で企業業績もいい。

 しかし、あまり加熱するとまずいので、多すぎる需要を減らす政策が取られる。つまり、財政支出の縮小や増税、金融引き締めを行う。当然、中央銀行は利上げをするから、株式も債券も下落するため、投資家は身構えることになる。

 そうして、インフレが確実となる前に、資産を金融資産から実物資産にシフトして乗り越えようとする。株から不動産、金(ゴールド)などに乗り換える、いわゆる「資産シフト」だ。

 ただし、金融引き締めによる利上げの場合は、すべての資産の利回りが上昇するので、ほぼどの資産にシフトしてもダメージを受ける。

(つづく)

 


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