連載629 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(上)

連載629 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(上)

(この記事の初出は8月31日)

 タリバンによって制圧されたアフガニスタンの今後に、世界中が注目している。しかし、救出劇が終わり、アメリカが完全に手を引けば、中国、ロシア次第だが、タリバンは内紛を始め、アフガニスタンは泥沼と化すだろう。

 しかし、もっと大きな問題は、この敗戦によって、アメリカの世界覇権、ドル支配体制がどうなるかだ。アメリカは、アフガンで2兆ドルを失ったとされる。ベトナム戦争の敗戦時を思い起こせば、ドルショックが頭をよぎる。あの悪夢が、ふたたび繰り返されるのだろうか?

人材不足、資金不足でまともな国をつくれない

 首都カブールを陥落させ、アフガニスタン全土を制圧したはいいが、タリバンには、まともな政府をつくる能力もなければ人材もいない。さらに、資金が底をついている。そのため、今後、国際社会からの援助が得られなければ、アフガニスタンは泥沼と化すと、私は思っている。

 中国とロシア、そして隣国のイラン、パキスタン次第だが、アメリカが出ていった穴は自分たちでは埋められない。

 タリバンは、「イスラム原理主義集団」「イスラム神学校の生徒集団」などと言われてきたが、もともとは1979年から10年間にわたったソ連のアフガニスタン侵略に抵抗した「ムジャヒディン」(イスラム・ゲリラの戦士たち)である。

 つまり、彼らは、単なる武装集団、軍閥であって、組織そのものは一枚岩でなく、いくつかの武装集団、軍閥の集合体である。したがって、アメリカという共通の敵がいなくなれば、武装集団や軍閥同士で内紛を起こすのはほぼ間違いない。

 しかも、資金がないので、離反する相手を引き止めておけないうえ、兵士たちに給料も払えない。

 アフガン政府の資金、つまりアフガン中央銀行が保有する資産は約90億ドル(約9900億円)と言われるが、そのうちの約70億ドルはニューヨーク連銀に保管されている。これは、アメリカ政府によってすでに凍結された。

 また、中央銀行保有以外の国外の資金は、タリバンが国家として承認されない限り引き出すことはできない。

 つまり、タリバンはアフガン政府が残した国内資金と手持ち資金で、政権運営をするほかない。しかし、その額はわずかだ。

対外債務を返済できずデフォルトの危機に

 アフガニスタンという国は、世界からの援助で成り立っている。国家予算の約7割が国際援助で占められている。主要産業といえば、農業と牧畜業で、就業人口の約7割が農業に従事している。鉱物資源も少なく、石油も出るが隣国イランと違って産出量は微々たるものだ。ただし、開発が進んでいないだけで、石油や希少金属資源の多くが眠っているとも言われている。

 いずれにしても、アフガニスタンは世界最貧国の一つで、国民の3分の2は1日2ドル以下で生活している。

 カブール陥落前、IMF(国際通貨基金)は、アフガンに援助金3億7000万ドルを送金する予定だった。しかし、タリバンが国際的に承認されていないことを理由に、これを撤回した。

 また、WB(世界銀行)は、8月24日に、アフガンへの財政支援を停止すると発表した。アフガンでの開発プロジェクトに援助されるはずだった53億ドルが凍結された。

 外貨がこなくなれば、アフガンの貿易決済はたちまち行き詰まる。ドルがなければ、国民の食料すら買えない。アメリカ統治下では、数週間ごとに輸送機でドルが運び込まれていたという。

 国際援助なしでは国家財政はもたないばかりか、対外債務の返済もできなくなる。そうなれば、アフガンは国家としてデフォルトするほかない。

 現在のところ、アフガンの対外債務がどうなるかは、まったくわからない。中国は、有利な交換条件がなければ引き受けないだろう。

(つづく)

この続きは10月15日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。


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