連載648 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (上)

連載648 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (上)

 岸田新内閣が誕生しても、市場のムードは暗いままで、将来がまったく見通せなくなっている。そればかりか、このメルマガで何度か警告してきたように、物価が上がり、これまでのデフレが一変し始めた。メディアはインフレを指摘し出したが、日本の場合は、明らかにスタグフレーションである。
 所得が上がらないなか、一方的に物価が上がり、貯金、現金の価値は低下する。この先、株、不動産などはどうなっていくのだろうか?

 

10月からいっせいに始まった値上げ

  10月1日付の「読売新聞」は、『値上げまた値上げの10月、野菜・マーガリン・牛丼…宣言解除でも水を差すおそれ』という記事を掲載した。  この記事で紹介された主な値上げ品は、次のとおりである。

・マーガリン:雪印の「ネオソフト」(160グラム)の希望小売価格は税込みで16円ほどの値上げ。
・牛丼:松屋は「牛めし」(並盛り)を税込み320円から全国一律で380円に値上げ。
・野菜:農林水産省は9月29日、主な野菜14品目の10月の価格見通し(卸値ベース)を発表。ジャガイモとタマネギは10月を通して平年より2割以上高くなる見込み。ハクサイやレタス、ナスも、高値で推移。

 記事では、以上を紹介したあと、今後、年末の繁忙期にかけて、そのほかの食料品、たとえばケーキなどが、原材料の高騰から値上がりすることを警告していた。

 こうした製品価格の直接の値上げと「ステルス値上げ」(価格を据え置いたまま内容量を減らす実質的な値上げ)はこの夏を境に本格化し、このメルマガでも何度か取り上げてきた。日本はすでに「貧乏国」に転落しているので、値上げは国民生活にダイレクトに影響する。

 ここのところよく聞くのは、日本人がクルマが高くて買えなくなったということ。そのため、メーカーは軽自動車ばかりを国内販売に投入し、普通車はみんな海外に持っていってしまったという話だ。

日本はもはや「スタグフレーション」だ!

 物価が上がるということは、これまでのデフレがインフレに転換したということである。日本政府は、金融政策と財政政策により、経済がデフレを脱却してインフレになることを望んできた。そうすれば、景気は回復するとアナウンスしてきた。

 しかし、インフレには2種類がある。「良いインフレ」と「悪いインフレ」だ。

「良いインフレ」では、物価の上昇とともに給料も上がる。好景気がインフレの原因なので、需要が増え、それに伴って生産量も増え、物価も上がるという好循環が起こる。つまり、このケースでは、いくら物価が上がっても所得増を伴うので、国民の生活、家計、ビジネスへの悪影響はない。

 ところが「悪いインフレ」は、原因が、たとえば原材料の逼迫で生産コストなどが上がることで起きる物価上昇だから、給料上昇を伴わない。このインフレは景気の良し悪しとは関係なく起こるので、景気が良くないときに起こると、国民生活に悪影響をもたらす。とくに、低所得者層は生活が困窮する。

 この悪いインフレを「スタグフレーション」と呼んでいる。現在のインフレは、コロナ禍で景気が低迷するなかで起こっているので、これは明らかなスタグフレーションである。

 日本でスタグフレーションが起こったのは、原油価格の高騰で物価が急騰した1970年代の「オイルショック」のときだった。このスタグフレーションによって、それまで続いてきた、奇跡と言われた日本の「高度経成長経済」が終わった。

(つづく)

 

この続きは11月11日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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