連載661 日本を襲う「円安地獄」: 円を持っているだけで貧しくなる! (下)

連載661 日本を襲う「円安地獄」: 円を持っているだけで貧しくなる! (下)

 

スタグフレーションに突入で生活苦に 

 ここまでは“悪い円安”を、主に企業の面から見てきたが、これにもっとも苦しむのは、じつは一般国民である。というのは、物価高騰によるインフレが進むなか、給料は上がらないからだ。この状況を「スタグフレーション」と呼ぶが、日本の経済メディアは、まだこのことを認めていない。

 まして、政治家たちはまともに国民生活を見ようとはしていない。まだ、デフレだと思っているオメデタイ政治家もいる。

 すでに、多くの輸入品の価格が上がっている。これが、日用品、食料品に波及してくれば、もはやスタグフレーションは目に見え、肌で感じられるようになる。なぜなら、給料が上がらないなかで物価が上がるため、生活が一気に苦しくなるからだ。

 今後次第だが、いずれ大幅なリストラ(人員削減)に踏み切る企業が出てくるだろう。

 この状況で、政治はどうやって給料を上げるというのだろうか。今回の選挙公約のなかで、与野党ともに給料を引き上げる、最低賃金を引き上げると言ってきた。自民党は、給料を引き上げた企業に対しては、法人税を減税するなどと言ってきたが、そんな方法で給料が上がるわけがない。どこまで、オメデタイのだろうか。

株価も債券も下落し投資家にもダメージ

 すでにアメリカでは、「スタグフレーションは不可避」という見方が強くなっている。これは、資源価格の高騰、サプライチェーンの混乱、供給不足などによる物価高騰に、景気回復が追いついていないからだ。実際、9月の消費者物価指数(CPI)は前年比5,4%上昇したのに対して、第3四半期のGDPは前期比2.7%増と成長は鈍化している。

 10月27日付のロイター記事「スタグフレーションに身構える市場、70年代の再来は本当か」によると、グーグルでのスタグフレーションの検索数が2008年以降で最多になったという。また、バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチの調査によると、スタグフレーションを想定するファンドマネジャーの数は10月に14ポイント増え、2012年以来の水準に達したという。

 スタグフレーションは、一般国民の生活にもっとも打撃を与えるが、投資家にも大きなダメージを与える。

 ロイター記事では、過去のスタグフレーションの局面では、「S&P500」の騰落率がマイナスになったことを紹介している。また、アメリカ国債が下落を続けたことも紹介している。

(つづく)

 

この続きは12月2日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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