連載679 “環境少女”の言うことを聞いてはいけない! アメリカとドイツ(欧州)が陥ったインフレの罠 (下)
最悪の場合、今年の冬にドイツは大停電になる
ドイツは「環境大国」を自認している。世界でいちばん環境運動が盛んで、地球温暖化を阻止することが正義だとする環境団体の数が多い。そうした団体、活動家に支えられ、どの政党も「グリーン革命」「脱炭素」を唱えてきた。
なかでも有名なのが緑の党だが、彼らは最近の燃料や電気代の高騰を、ロシアのプーチン大統領のせいだとしている。
プーチン大統領が、ロシアからLNG(天然ガス)を運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の承認手続きを一時停止したことも、この主張に輪をかけた。なにしろ、ドイツに限らずユーロ圏は、LNGの3分の1をロシアから輸入している。
しかし、この主張はおかしい。
本当の原因は、原発を減らし、石炭火力などの化石燃料発電から風力、太陽光などのクリーン発電に切り替えすぎたからだ。風力、太陽光などでは電力供給が不安定になる。ドイツは、こうした再生可能エネルギーへの転換をやりすぎたため、電力の供給バランスが崩れてしまったのだ。
原発と石炭火力をなくせば、再生可能エネルギーに転換できなかった分は、LNGに頼るしかなくなる。しかし、ロシアがLNGを供給しなければどうなるか。
いま、これが現実となって、ドイツは冬を控えて立ち往生している。しかも、今年末で原発6基のうちの3基を止めることになっているので、これを行えば、最悪の場合は大停電が発生することになる。今年の冬が悪天候で、太陽がなかなか顔を出さない、風が吹かないとなったら、これは笑い事ではなくなるのだ。
いまや、緑の党をはじめ、脱原発と脱石炭を主張してきた中道左派の社会民主党(SPD)も中道のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)も、環境政策を変えなければならないときがやってきている。
COP26の共同声明にインドと中国が反発
ここで、11月13日に閉幕した「第26回気候変動枠組条約締約国会議」(COP26)を振り返りたい。この会議は、世界各国が温暖化対策を進めるにあたって重要な意味を持つが、今回は土壇場で、中国とインドが共同声明の表現に対して異議を唱えた。
当初、非効率な石炭火力発電や化石燃料への補助金の「段階的廃止」(phase out)」となっていた文言が、この異議により「段階的縮小」(phase down)」に書き改められた。
このため、議長国のイギリスは面目が潰れ、ドイツは大混乱に陥った。
中国とインドは、二酸化炭素の2大排出国である。したがって、この2国が参加できない共同声明は意味がなくなる。そのため、世界が妥協せざるをえなかったのだが、こうなってみると、「2050年に気温上昇1.5度以内」という目標は不可能ではないかと思える。
そのためには、「脱炭素100%=カーボンゼロ」を達成しなければならないのだが、それはとうてい無理と思えるのだ。
この思いを強くさせられるのが、ドイツの現状、アメリカの現状である。いくら、再生可能エネルギー転換を進めても、資源価格が高騰して、電力が安定供給されなくなってしまえば無意味である。
COP26には、二酸化炭素の排出国第3位のアメリカからバイデン大統領が出席した。しかし、ほとんど影響力を行使できなかった。中国の習近平主席はオンラインのみで参加、ロシアのプーチン大統領は欠席した。ちなみに、日本は岸田首相は、滞在8時間の弾丸参加をしたが、まったく印象に残らなかった。
(つづく)
この続きは1月7日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。