連載691  中国経済の失速が日本を直撃、このままでは私たちの暮らしは窮地に!(中2)

連載691  中国経済の失速が日本を直撃、このままでは私たちの暮らしは窮地に!(中2)

(この記事の初出は2021年12月21日)

 

中国への投資はリスクが大きすぎる

 製造業の中国デカップリングと同時に進んでいるのが、中国への投資の撤退だ。これまで、中国への投資で利益を上げてきた投資家たちは、習近平政権が企業への締め付けを強化するのを見て、資金を引き挙げるようになった。
 たとえば、今年の7月の配車アプリ大手「滴滴出行」(ディディ)のニューヨーク証券取引所への上場は、その象徴的な事件となった。
 ディディは、中国国内を中心に年間ユーザー数が5億人に迫ると喧伝され、上場を前にNY市場は湧きに湧いていた。そのため、上場すると、時価総額は一気に約670億ドル(約7兆3700億円)に達した。
 ところが、上場からわずか2日後の7月2日、中国政府は突如として、「国家安全上の理由」でディディを審査することを発表した。これにより、新規ユーザーの登録は停止させられ、さらにその2日後、今度はディディが違法に個人情報を収集していたとしてアプリのダウンロードまで停止させられたのである。
 その結果、株価は一時25%も下落し、投資家たちのお祭り騒ぎはあっけなく終わってしまった。
 中国政府による企業の締め付けは、昨年11月から始まった。まず、標的になったのが「阿里巴巴」(アリババ)で、傘下のアントグループが計画していた株式公開が延期させられた。そして、今年に入ると「騰訊控股」(テンセント)が標的にされ、低所得層に対する支援に日本円で約8500億円を拠出することを強要された。
 このような北京の企業への締め付けは、習近平政権が経済よりも政治に重点を置き出したことを意味する。

「共同富裕」によりますます冷え込む

 習近平政権は、コロナ禍以前から、経済加熱による国民生活の爛熟に歯止めをかけようとしてきた。超富裕層が贅沢の限りを尽くすのを見て、彼らの動きを政府がコントロールできなくなることを恐れてきた。
 そのため、習近平主席は、崇拝する毛沢東路線への回帰を図った。つまり、第二の「文化大革命」を始めたのである。
 しかし、そんなことをすれば、経済が失速するのは目に見えている。
 今年の8月、習近平政権は、ついに「共同富裕」というスローガンが打ち出した。富裕層の富を共産党が再配分し、格差を是正して国民全体を豊かにするというのだ。しかし、実際にそれをやると、国民全体が貧しくなる。
 たとえば、「共同富裕」政策の一環として、中国政府は一部の都市を対象に5年間の時限措置として試験的に土地(使用権)と建物を対象とする不動産税の導入を決定した。共産主義の中国では土地を所有できないため、不動産税(日本の固定資産税に当たる)はありえない。
 ところが、それをつくって導入するというのだから、明らかに富裕層の狙い撃ちである。というのも、富裕層は不動産投資で過剰な利益を上げてきたからだ。
 このような不動産税の導入以外にも、中国政府は高額所得者を対象にした税制改革を企画している。今後、そうした「共同富裕」政策が次々に実行されれば、中国経済はいやでも減速する。

(つづく)

 

この続きは1月26日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。