連載705  地球温暖化の不都合な真実(3) じきに始まる「大移住・大移民時代」に備えよ! (下)

連載705  地球温暖化の不都合な真実(3) じきに始まる「大移住・大移民時代」に備えよ! (下)

(この記事の初出は1月5日)

 

すでに始まっている環境移民の大移動

 環境移民の増加は、私たち温帯地域に暮らす人間にとっても、けっして他人事ではない。なぜなら、元をたどれば、私たちもまた環境移民だったからだ。
 人類史を振り返れば、私たち人類は、常に環境に適応することで生き抜いてきた。地球環境が「氷期」(glacial periodと「間氷期」(interglacial period)を繰り返すなかで、住みやすい土地を求めて常に移動して生きてきた。その結果、7、8万年前にアフリカを出た人類は、世界中に散らばった。
 人類にとって、「移住」は日常茶飯事であり、むしろ「定住」のほうが非日常なのだ。私たちは、太古の昔から、気候変動による洪水、砂漠化、森林破壊、土砂崩れ、干ばつ、海水面の上昇などに対して、現実的な対応として、生まれ育った土地を離れ、移動を試みてきたのである。
 こうした歴史をかえりみれば、環境移民の発生は当然のことで、これを促したり、受け入れたりする体制を整えることのほうが、地球温暖化対策としては重要ではないかと思える。なにしろ、気温上昇が予想以上に速いなら、これは急務である。
 じつは、環境移民はすでに大量に発生している。国連の推計では、2016年に5000万人に達したとされている。彼らのほとんどは熱帯地域の途上国の人々で、移住先は自国内の都市部である。そのため、アフリカの都市の人口は増え続けている。

環境難民の流入で都市スラムが拡大中

 環境移民というより「環境難民」と言ったほうがいいかもしれない。現在、次の3カ国は、深刻な環境難民問題を抱えている。
[ケニア、エチオピアの環境難民]
 この2カ国は、近年、アフリカのなかでもとくに干ばつの被害が深刻化している。そのうえ、家畜の餌や水をめぐる部族間の抗争がたびたび起こるので、多くの人間が都会へと逃げ出すようになった。
 そのため、ケニアの首都ナイロビの人口は増え続け、それとともにスラムが拡大している。ナイロビには、中心街から少し離れた場所に、アフリカ最大のスラムと言われる「キベラスラム」があり、ここには推定で100万人以上の人間が暮らしているとされる。キベラスラムを含めた全スラムには、ナイロビの人口約400万人の60%が暮らしているという。
 コロナ禍はナイロビも襲い、多くの感染者、重症者、死者を出した。
[バングラデシュの環境難民]
 バングラデシュの気候変動は、世界のどの地域より深刻だ。毎年のように大規模な干ばつ、熱波、暴雨が襲い、サイクロンによる破壊的な洪水が何度も起こっている。
 そのため、首都ダッカには、毎年約30万人の環境難民が流入し、人口は増え続けている。現在、ダッカ首都圏の人口は1600万人を超え、スラムも増え続けている。
 現在、ダッカのスラム数は4300カ所とされ、そこに300万人以上の難民が暮らしているという。
 IPPCによると、2050年までに、バングラデシュの主食である米及び小麦の生産量は、1990年の水準に比べて、米が8%、小麦が32%減少すると予測されている。

移民受け入れ大国、カナダ、ドイツの未来

 地球温暖化の加速は、今後、環境移民を増加させるのは間違いない。北半球の場合、移民のトレンドは「南」から「北」だ。人間が快適に暮らせる「コンフォタブルゾーン」は、温暖化により、確実に北(高緯度地域)に移動しているからだ。
 この南から北への移動は、欧米諸国に殺到中の「経済移民」「政治難民」の動きとぴったりと一致する。こうした移民の大きな要因は、欧米先進諸国の人口減にあるので、今後、欧米諸国は環境移民も受け入れるようになるだろう。移民で人口減を防がなければ、先進国の経済は衰退してしまうからだ。
 もちろん、日本も同じで、このまま移民を拒否しし続けていけば、ますます経済は衰退し、先進国転落が確実になる。
 現在のところ、理由はなんであれ、大量の移民を受け入れているのは、アメリカを除けば、カナダとドイツだ。なかでもカナダは、多文化主義を国是とし、毎年1%の人口増加を目標として、約40万人の永住移民を受け入れている。人口が約10倍のアメリカが年間約60万人だから、カナダの移民受け入れ規模は世界一である。
 その結果、いまやカナダは、どの人種・民族もマジョリティでない多様民族・多人種国家になっている。
 ドイツは、人口減少による労働力不足を補填し、生産力を強化するため、移民や難民を欧州でいちばん多く受け入れてきた。毎年、イラク、シリア、アフガニスタンなどから数万人を受け入れ、インドからはIT技術者を中心として数千人を受け入れてきた。そのため、反移民感情が高まっているが、この先も受け入れ続けなければ経済は失速してしまう。メルケル首相が去ってもドイツは移民政策を変更することはないと見られている。
 カナダ、ドイツ、そしてアメリカから今後の世界経済を展望すると、移民なしでは経済は発展しないと断言できる。温暖化が進むなかで、移民大国が世界経済をリードしていくのは間違いない。日本のような移民に対して非寛容な国は、今後、没落していくだけになる。

(つづく)

 

この続きは2月15日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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