連載715  コロナ禍で深刻化するジェンダーギャップ 世界で最後の「女性差別大国」になるのか? (下)

連載715  コロナ禍で深刻化するジェンダーギャップ
世界で最後の「女性差別大国」になるのか? (下)

(この記事の初出は1月18日)

 

じつは家庭に収まりたい女性たち

 このような「男が先で女が後」(男性優位社会)をつくっているのは、男性ばかりが悪いのではない。女性にも、それでいいとする考え、願望があるからだ。
 やや古い統計だが、内閣府が2014~2015年に実施した「結婚・家族形成に関する意識調査」では、結婚を望む20~30代の未婚者に「結婚相手に求める条件」を聞いている。それによると、結婚相手に「経済力があること」を挙げた男性が7.5%にとどまったのに対して、女性は52.5%にも上っている。
 つまり、女性は男性に、なによりも経済力(食べさせてくれること)を求めているのだ。この調査では、結婚後に「夫が家計の担い手になる」のが理想と答えた20~30代の女性の割合は、未婚・既婚を合わせて68.4%に達している(「どちらかというと夫が担い手になる」を含む)。
 この調査からわかるのは、日本女性が、経済的的自立を望んではいないことだ。経済的な自立よりも、家庭に入って暮らしたいのである。この意識の延長は、子育てにも現れている。
 内閣府が2020~2021年に行った子供を持つ女性に対する調査で、自分自身の育児負担を減らすために民間のベビーシッターや家事支援サービスを利用することへの意識を聞いたところ、62.9%が「抵抗あり」としたのだ(「抵抗が大いにある」「抵抗が少しある」の合計)。これは、スウェーデンの43.3%、ドイツの33.2%、フランスの26.0%を大きく上回っている。
 つまり、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という価値観を、いまだに持っていると言える。男女とも、まだこの価値観のなかにいるのが、日本社会と言えるだろう。
 しかし、それは、女性にとって最悪の結果、残酷な結果をもたらす。

専業主婦になれる割合はたったの2%

 日本女性の半数以上は、経済的的自立を望んではいない。となれば、男女同権社会の実現などほど遠い。
 しかし、日本の現実は、女性にそんな願望を抱かせないところまできている。日本社会は、もはやそんな豊かな社会ではない。女性が夫の収入だけで暮らしていける社会ではなくなっている。
 ここ半世紀、女性を取り巻く状況は大きく変わった。1970年と現在を比べてみると、女性の平均寿命は74.66歳から87.45歳へと、なんと10歳以上も伸びた。その一方で、女性の平均初婚年齢は24.2歳から29.4歳と5歳以上上昇し、平均第1子出生年齢は25.6歳から30.7歳と、こちらも5歳以上上昇した。
 そうしたなか、日本はバブル経済時の「1億総中流社会」をピークとして、四半世紀にわたって経済衰退を続けてきた。この間、たしかに日本女性の社会進出は進んだが、それは女性が望んだのではなく、そうしなければ生きていけなくなったからだ。そのため、専業主婦は激減した。
 専業主婦になるためには、夫は高収入でなければならない。では、その収入はどれくらい必要だろうか?
 ネットで検索すると、その最低条件は「30歳時点で年収700万円(夫婦2人だけなら500万円)、退職金2000万円、30歳時の貯蓄額300万円」と出てくる。
 そこで、この条件に合う男性がどれほどいるかというと、30歳男性の2%ほどにすぎない。つまり、この2%の男性と結婚しなければ、その時点で専業主婦にはなれないのだ。

 

いくら働いても賃金は男性の8割以下

 日本の女性差別・蔑視の最大の問題は、男性との賃金格差が大きすぎることだ。政府は、1月14日、この問題を追及した日本共産党の山添拓参院議員に対し、詳しいデータを提示した。
 それによると、勤続年数別では、勤続「1~2年」で男性の84.2%だった女性の賃金水準が、年数を経るごとに低下し、勤続「10~14年」では77.4%落ち込み、以降も7割台にとどまっている。
 また、役職別では、「係長」で88.4%、「課長」で88.8%、「部長」では86.5%と差が開く。管理職の女性比率は課長級で12.1%、部長級で9.1%と、登用される女性が圧倒的に少ないなかで、役職に就いてもなお格差があり、昇格するほど格差が広がっていた。
 ただ、これは主に正規労働の話であり、非正規労働にいたっては、女性はほとんど使い捨ての低賃金ワーカーとして扱われ、賃金は男性の6割程度にとどまっている。


(つづく)

 

この続きは3月2日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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