昨秋の選挙で圧勝し、20年ぶりの民主党所属市長としてリベラルで革新的な市政を目指すニューヨーク市のビル・デ・ブラシオ市長が就任して6カ月が経過した。市民との“ハネムーン期間”も終わり、同市長を「好ましい」とする支持率は現在51%で、昨秋の得票率から比べると大きく後退している。また黒人層の支持は厚いものの、白人層の評価は以前分かれているのが現状だ。
デ・ブラシオ市政の6カ月を振り返り、これまでに達成した事項と敗北に終わった事項、現在も進行中の課題をまとめた。
①ユニバーサル・プリキンダーガーテン(プリK)
ニューヨーク市の公立プリK(日本の幼稚園の年中組)プログラムを開始することと、その財源を富裕層に対する増税で賄うことは、同市長の公約の目玉とされていた。しかし、選挙の年に増税を行うことに否定的なアンドリュー・クオモ州知事が増税案に反対し、市長と州知事が財源を巡り対立する結果に。最終的には州予算を財源として充てるとする州知事の方針を受け入れ、増税案は諦める結果となった。
同市では今秋、5万3000人のプリK新入生を迎える予定。
②動物愛護
選挙期間中に動物愛護団体からの支持を得た同市長は、動物虐待であるとして、セントラルパーク周辺の観光用馬車の廃止を公約として掲げていた。しかし、著名俳優を中心に多くの個人・団体が反対キャンペーンを開始したため、市民やメディアの注目も高まった。
ある調査では市民の66%が「廃止には反対」と答えており、市長の公約実現は難しいとの見方が有力だ。
③NYPDの改革
「ストップ・アンド・フリスク」と呼ばれる強引な職務質問では、ブルームバーグ前市政の2012年には68万人が対象となった。その多くが黒人やラテン系などマイノリティーの市民であったため、人種差別を助長するとして人権活動家らがこれを非難。NYPDを相手取り、集団訴訟が起こった。裁判ではこの捜査法を違憲とする判断が下され、ブルームバーグ前市政は控訴していたが、デ・ブラシオ市長は就任後、公約どおりこの控訴を取り下げた。さらにNYPDとしては初の監察官の任命も行っている。
またジュリアーニ市政時代にNYPDで長官を務めたウィリアム・ブラットン氏を再び長官として呼び戻す際には、同氏がこの職務質問法の擁護派であったため、市民からは懐疑的な声が聞かれた。
④歩行者の交通安全対策
「ビジョン・ゼロ」と呼ばれる交通事故死撲滅計画のもと、同市長とNYPDは違反の取締強化や制限速度の減速などの対策を掲げ、市議会もこれらの法制化を進めている。
⑤アフォーダブル・ハウジング
中低所得者層向けの手頃な価格の住宅政策は、同市長の最優先事項として掲げられた公約のうちのひとつで、ことし5月には20万戸の住宅を新たに増やす計画と410億ドルの予算を発表した。しかし、計画には具体案が欠けているとして批判されたほか、ホームレスの人々に750戸の住宅を割り当てるとした計画は、市議会から「数字が臆病すぎる」と叩かれた。
一方、ブルックリン区の砂糖工場跡地の再開発で、手頃な価格の住宅用に700戸を用意することで開発業者と話をまとめた件では、市長側は「大きな勝利」と称えている。
⑥市政の透明性
同市長は市政の透明性を高めるとしながらも、公の行事などで報道陣を立ち入り禁止とすることが多く、現在も非難の対象となっている。
また市長の有力な支持者であるオーランド・フィンドライター司教が逮捕された際に、自らNYPDの担当者へ照会の電話をかけていたことが明らかに。司教は一晩で釈放されたため、同市長の行為を不適当とする声が上がった。
同市長は広報チームに新しいスタッフを採用し、自身のパブリックイメージの改善と、マスコミとの関係修復に現在努めている。
⑦チャータースクール
チャータースクールの拡大に積極的だったブルームバーグ前市長の政策に否定的なデ・ブラシオ市長は、3件の施設拡大予定を中止する指示をことし2月に出した。これに対し、チャータースクール擁護派が猛反発、中でもサクセス・アカデミーの創設者であるエバ・モスコビッツ氏は、360万ドルをかけ同市長の決定に反対するキャンペーンを展開。さらにクオモ州知事がチャータースクール擁護派に加わったこともあり、同市長の発言は次第にトーンダウンしていった。