連載750  ウクライナ戦争を読み解く(3) ロシアは孤立し崩壊するのか? 経済制裁から見えてくる「もう一つの世界」 (下)

連載750  ウクライナ戦争を読み解く(3)
ロシアは孤立し崩壊するのか? 経済制裁から見えてくる「もう一つの世界」 (下)

(この記事の初出は3月17日)

 

エネルギーと食糧から見た経済制裁

 さらに、ここからは、経済制裁の鍵を握ると思われる、経済制裁非参加国の食糧生産力(小麦生産量とトウモロコシ生産量)、エネルギー生産力(原油生産量)の世界ランキングを見てみたい(2020年版、外務省資料、CIA統計などを参照)。
 まずは当のロシアだが、原油産出量世界第3位、小麦生産量世界第3位 、トウモロコシ生産量世界第10位のため、エネルギーと食糧に困るということはまずありえない。
 それでは、経済制裁の非参加の国々はどうだろうか?

・中国:小麦生産量世界第1位 トウモロコシ生産量世界第2位
・ブラジル:原油産出量世界第8位 トウモロコシ生産量世界第3位
・インド:小麦生産量世界第2位 トウモロコシ生産量世界第7位
・メキシコ:原油生産量11位 トウモロコシ生産量世界第8位
・アルゼンチン:小麦生産量世界第10位 トウモロコシ生産量世界第4位
・サウジアラビア:原油産出量世界第2位
・アラブ首長国連邦:原油産出量世界第7位

  ざっとこのような状況だが、これを見ただけで、ロシアはこうした国々と貿易と経済を回していけば、十分サバイバルできるのではと思われる。
 ただし、このなかで、最大の鍵を握っているのが、言うまでもなく中国だ。


中国がロシア制裁に絶対に加わらない理由

 中国とロシアは、いまは蜜月状態、ウインウインの関係にある。現在、両国の貿易関係は強固である。中国はロシアのエネルギー資源を欲しており、ウクライナ侵攻の数週間前にも、ロシアの天然ガスを追加購入すると発表している。また病害を理由に制限していたロシア産小麦の輸入も、全面解禁に踏み切っている。
 欧米諸国が「外交ボイコット」に踏み切った北京冬季五輪でも、プーチン大統領は主要国のリーダーとしてただ1人、開会式に出席した。
 このとき、習近平主席と会談し、「新時代に突入する国際関係と世界の持続可能な開発に関するロシアと中国の共同声明」というステイトメントが発表された。
 それによると、両国は「(現在の2国間関係が)冷戦時代の政治的および軍事的同盟よりも優れていることを再確認」し、そのうえで、「政治と安全保障、 経済と金融、人道的交流という3つの主要分野での協力を拡大する」となっていた。
 この共同声明の発表と同じ日に、ロシアの天然ガス会社のガスプロムと中国の石油複合企業、中国石油天然気集団(CNPC)は、天然ガスを追加供給する新契約を結んでいる。その総量は、欧州向けの新パイプライン「ノルドストリーム2」の稼働が遅れても、それを十分に補える額だった。
 中国はロシアのエネルギー資源と食糧を必要とし、ロシアは、中国が持つ技術と資本を必要としている。この補完関係のため、中ロ間の貿易は、2001年の107億ドルから、2021年には約1400億ドルに拡大した。なんと、20年間で10倍以上に膨らんだ。

(つづく)

 

この続きは4月20日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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