連載767  ロシアに対する経済制裁は効かない 世界は分断され、インフレは進み、ドルまで崩壊する (中3)

連載767  ロシアに対する経済制裁は効かない 世界は分断され、インフレは進み、ドルまで崩壊する (中3)

(この記事の初出は4月12日

 

インフレで金利を下げるというトンデモ理論

 トルコのデタラメさに関しては、特筆しておかねばならないことがある。それは、インフレが進んでいるにもかかわらず、金融緩和を続けていることだ。
 エルドアン大統領は、「インフレは金利を下げれば治る」というトンデモ理論を掲げ、過去2年半に3人の中央銀行総裁を解任した。そうして、無理やり金融緩和を続けてきた。
 インフレを抑えるためには、金利を上げる。これが金融政策の常識で、逆に金利を下げるなど、あってはならないことだ。しかし、エルドアン大統領は、頑として聞き入れなかった。
 そのため、トルコのインフレはいまも止まらず、ウクライナ戦争勃発後はさらに進行した。また、トルコリラは下がり続け、昨年後半には1トルコリラ=15円前後だったが、いま8円台まで下げている。

日銀が金融緩和をやめない理由とは?

 インフレが進んでいるのに、中央銀行が金融緩和を続けていると言えば、日本も同じだ。こんなことをやっているのは、世界中でトルコと日本だけである。日銀の黒田総裁は、金融緩和をやめるつもりはまったくない。
 3月30日、日銀は指し値オペとともに、通常の国債の買い入れを増額し、2.3兆円余りも買い入れた。これは、量的緩和を決定した2013年4月以来、ほぼ9年ぶりの規模である。
 これでは、インフレも円安も止まらない。日本は自ら率先して景気を悪化させているとしか思えない。うがった見方をすれば、そうしないと金利上昇によって国債利払い費がかさみ、財政破綻してしまうからだろう。
 それを防ぐために、金融緩和をやめられないのだ。別に不景気でも役人は困らない。

「SWIFT」で加速する世界のドル離れ

 経済制裁のなかでもっとも効果があるとされるのが“金融爆弾”と称される「SWIFT」(国際銀行間通信協会)からの排除だ。ロシアの金融機関にSWIFTを利用できなくさせれば、キーカレンシーである米ドルによる貿易の決済ができなくなる。つまり、輸出入がストップしてしまう。
 アメリカは、これに踏み切った。
 しかし、ここでもまた、ズベルバンクやガスプロム銀行などエネルギー取引の決済機関を外すなどの抜け道を設けたので、効果は薄れてしまった。そのため、制裁第2弾ではこれらの金融機関を追加したが、それでも抜け道は残った。
 さらに、ドル決済からの除外の逆効果として、中東産油国をはじめとする非西側諸国の反発が強まり、ドル体制から抜け出そうという動きを加速化させてしまった。たとえば、サウジアラビアは、「ペトロ人民元決済」といって、人民元による石油取引決済の実施を早めることになった。サウジアラビアはもちろん、ロシアへの経済制裁には加わっていない。
 すでに、石油取引に関しては、2020年には英BPが上海先物取引所で人民元建てにより中東産原油を引き渡すなどの事例があるので、各国のドル離れが進む可能性がさらに高まった。


(つづく)

 

この続きは5月13日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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