連載768 ロシアに対する経済制裁は効かない 世界は分断され、インフレは進み、ドルまで崩壊する (下)
(この記事の初出は4月12日
中国もロシアも独自の決済手段を構築
2008年のリーマンショック以来、米ドルへの依存度を引き下げようという動きが、世界中で始まった。
中国はとくに、戦略としてドル依存から抜け出し、人民元の国際化と外貨準備の多様化を進めてきた。そうして、人民元による国際銀行決済ネットワーク「CIPS」をつくった。
これは、ロシアも同じだ。中国の「CIPS」と同様な、ルーブルを基にした独自の国際決済ネットワーク「SPFS」を、2014年のクリミア併合後の経済制裁を受けて構築した。中国の「CIPS」とロシアの「SPFS」がつながり、これにインドやサウジアラビア、イランなどが加われば、ドルの価値は明らかに低下する。
すでにインドは、ドルを介さず、ルピーとルーブルを使った貿易決済システムの構築に向かっている。
つまり、ロシアへの経済制裁は、短期的にはアメリカに好景気をもたらすかもしれないが、長期的には各国でドル離れが進むことで、アメリカの世界覇権の低下をもたらすのである。
ドル支配が薄れていくことで、世界はますますブロック化する。ドルとユーロによる「欧米ブロック」とドルを介さない決済が進む「非欧米ブロック」(中国、ロシアと新興国などによる経済圏)に、世界は分断されていく。
ドルは石油(ペトロ)による担保を失う
米ドルは 1971年のニクソン・ショックまでは、「金本位制」(ゴールドスタンダード)に基づく兌換通貨だった。本来、通貨は金(ゴールド)と兌換できなくなれば、信用・価値を失う。
しかし、アメリカはあらゆる国が必要とする石油(ペトロ)をドルのみで取引する体制を構築することで、ドルの基軸通貨としての信用を担保してきた。つまり、ドルは、金本位制から「石油本位制」(ペトロスタンダード)となり、今日にいたっている。
しかし、いまやアメリカは中東から手を引きつつあり、産油国であるロシアとは敵対しているので、石油はドルのくびきから離れ始めてしまった。
かつて世界の産油国は、石油取引で手にした莫大なドル収入を、ロンドンを中心とした世界中のオフショア金融市場を通じてドル建て金融商品で運用してきた。その最大の金融商品は、米国債だった。
つまり、世界の資産はほぼドル建てであり、グローバル企業も富裕層も、みなドルで資産を運用してきた。ロシアのオリガルヒも同じだ。
しかし、いま、その体制がウクライナ戦争をきっかけに崩れようとしている。バイデン大統領が、「軍事介入はしない」と言ったために、こんなことになってしまった。この老政治家は、自身がアメリカを衰退に導き、世界を混乱に導いているという自覚がない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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