「ファッション・ジャーナリストが書く、 NYラブストーリー」


 「2001年9月11日、私はどこにいるのだろう。ここはニューヨークなのだろうか。こんなニューヨークは見たことがない。こんなに大勢の人がいるのに、音がしないのだ」と衝撃的で、映画のワンシーンのようなエピソードから始まるNY在住の作家・伊藤操さんの新電子書籍「あなたを待ちながら」(英語版「Waiting for You」)がこのほど35ヵ国で同時配信された。アマゾン、キンドルストア、アイフォンストアなどで販売されている。
 NYのファッション界とアート界を舞台にしたラブストーリー。「2001年の9・11の目撃者として、書き手として、この悲劇をどうしても書き残しておきたいと思い続けてきた。日本人ファッション・ジャーナリストと米国人アーティストの愛を通して、この悲劇を私なりに昇華しました」と伊藤氏は話す。「愛は信じて待つこと」がテーマの切ないラブストーリーだ。
 伊藤さんは73年よりスタイリストとして活動、その後はファッションジャーナリストとして、80年代初頭から20年以上も数々の有名ファッション雑誌や業界紙へ寄稿。また、2001年から06年まではハーパース・バザー日本版の編集長も務めていた。
 過去の著書として、「ティナの贈り物」、「Manage-ダナ・キャランを創った男、滝富夫」など、ファッション関連の本を多く出版している。
 そして12日で終了となったNYファッションウィークに合わせ、伊藤さんにインタビューを行った。
 ファッション業界が活気に溢れ、斬新なデザインやヘアメイクが多数発表された、とても華やかで好景気だった80年代。しかし一方で、同性愛者たちによるHIV感染やドラッグが元で多くの人々が死亡するなど、激動の時代を舞台に「あなたを待ちながら」の物語はすすんでいく。
 まるで自分が主人公(夕子)になったかのように読者を物語の中に引き込み感情移入させる、鮮明でリアルな描写が印象的な伊藤さんの執筆のスタイルは「長年ジャーナリストをしていたから」だという。ネタバレしてしまうので、ストーリーは明記しないが、最後まで先が分からないまま読者を引っ張っていく文章も魅力的だ。
 また、「自分が最も心地良いと感じる言葉は自分の名前だという心理学者の言葉は本当だと実感した」「女性誌は女性に幸せになってもらうためにあるのだから、作っている私たちが幸せでなければ」「やりたいことを口に出すと、その夢は必ず叶う」など名言ともいえる言葉も満載だ。これらは、「今までの人生で出会った沢山の人たちの言葉や本など、そして俳句を詠むことを好んだ母親」からもらった言葉もあるという。
 「なぜ、主人公の年代を30代から始めたのですか」という質問には、「この年代は、色んな意味で可能性がある。また、同時に中途半端で不安定、将来を考え悩みを多く抱える。でもだからこそ、とても輝ける」と自身も大変魅力的な著者は語る。
 現在はこの続編も含めた短編ラブストーリーを執筆中だ。さまざまなニューヨークのロケーションを舞台に様々な恋がうまれるという内容。
 続編も楽しみな伊藤さんの著書「あなたを待ちながら」、9・11を終えた今日、読んでみては。

著者伊藤さんの好きな言葉
「愛する人を待っている時に、愛は熟成する」
「いい思い出を追体験するのは現在と未来の
自分を幸せにする」「あなたを待ちながら」より