連載808 株価はもう上がらない!
世界経済は試練の「長期低迷」へ (二の中)
(この記事の初出は6月8日)
NYダウのピークは3万6338ドル
コロナショックが市場を襲ったのは、2020年3月16日のことだった。この日、NYダウは前営業日比で2997ドル安という過去最大の下げ幅を記録した。下落率は、なんと12.9%。これは、1987年の「ブラックマンデー」で記録した22.6%に次ぐ過去2番目の下げ幅だった。そして1週間後、NYダウは1万8591ドルまで下げた。
このとき、市場は「総悲観」といった有様で、多くの個人投資家は投げ売りに走った。
しかしその後、NYダウは反発を始める。誰もが目を疑う上昇率で上がり始めた。コロナパンデミックが世界中に拡大し、経済成長率は10%を超えるマイナスを記録するのは確実とされたのに、株価だけは上がり続けたのである。
こうして、2年弱が経過した昨年12月、NYダウは、なんと3万6338ドルに達した。いま振り返れば、これがNYダウのピークである。
NYダウに連動してきた日経平均も、同じような経過をたどった。コロナショックが襲った2020年3月19日に一時1万6358円まで暴落したが、その1年半後の2021年9月には、一時的に3万円台をつけたのだ。
「ゴルディロックス相場」に警戒感
では、コロナショックが起きる前、2020年1月までの株式市場はどうだったろうか?
当時、NY市場は、「ゴルディロックス相場」(Goldilocks Market:適温相場)と呼ばれていた。ゴルディロックスとは、英国の有名な童話『3匹のくま』の主人公の少女の名前で、童話には「熱くもなく冷たくもないスープ」が登場する。つまり、NY株価は心地よい高値圏にあったのである。
しかし、このゴルディロックス相場に、「これはおかしい。バブルに過ぎない」と警戒する声が高まっていた。いくらなんでも、3万ドルを目指すNYダウの動きに、高所恐怖症になる投資家が続出していた。
私は投資家ではない。経済や政治、国際情勢を中心にモノを書いている人間に過ぎない。それでも、やはりこの状況はおかしいと感じ、このメルマガで何度か「もう適温相場は続かない」と述べ、バブル崩壊を警告した。
それは、欧米の著名な投資家たちがみな同じような見解を表明していたことも大きかった。
つまり、ゴルディロックス相場の崩壊は目前に迫っていたと言える。バブルは膨らみ過ぎたからだ。
ちょうどそこに、ドンピシャのタイミングでやってきたのが、新型コロナのパンデミックである。これで、株価が暴落しないはずがない。あのときは、「それ見たことか」と誰もが思った。NYダウが一気に2万ドルを割り込んだとき、市場は総悲観ムードになった。
ところが、各国政府が市場空前ともいえる財政支援に乗り出すと、市場のムードは一変した。QEが続くなかで、政府が国民にヘリコプターマネーをバラき始めたのだから、カネ余りはまだまだ続く。
これでは、経済がいくら落ち込もうと株価は上がると、誰もが思った。
給付金で株を買う「ロビンフッド」現象
アメリカでも欧州でも、政府が供給した給付金、いわゆるヘリコプターマネーの多くが、株式市場に向かった。その象徴が、アメリカで突如としてブームを巻き起こした「ロビンフッド現象」だ。
それまで投資経験のないミレニアル世代の若者たちが、政府からの給付金をNYダウやナスダックにつぎ込む現象が起こった。彼らは売買手数料が無料で、単位未満株を1ドルからでも投資できる投資アプリ「Robinhood」(ロビンフッド)を使っていた。
ロビンフッドたちの威力は凄まじかった。それまでほとんど“クズ株”にすぎなかった「ゲームストップ」(ゲーム小売りチェーンの会社)の株価を、SNSを駆使して暴騰させた。そして、次々にいくつかの企業がターゲットになり、企業価値とは関係なく株価が上がるという現象を引き起こした。
もちろん、本来の投資家、機関投資家、投資銀行、ヘッジファンドなども、大量の資金を市場につぎ込んだ。個別銘柄では、コロナ禍でかえって業績が上がるとされたビッグテック企業、とくに「GAFA」株が市場を牽引した。
しかし、株価が上がり続けたといっても、この2年間で景気がコロナ禍前に戻ったわけではない。世界経済は大きく傷ついたままである。つまり、株価バブルの崩壊は先送りされたに過ぎないのだ。
(つづく)
この続きは7月13日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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