連載810  株価はもう上がらない! 世界経済は試練の「長期低迷」へ (二の完)

連載810  株価はもう上がらない!
世界経済は試練の「長期低迷」へ (二の完)

(この記事の初出は6月8日)

 

ドルで見れば日本株は持ちこたえていない

 「日本株は持ちこたえている」というのが“ウソ”であるのは、日経平均をドル建てにすれば明らかになる。
 現在の日経平均はコロナ前の高値を大幅に上回っているが、ドル建てで見ると、コロナ直前の2020年1月とほとんど変わらない。これは、急激に進んだ円安のせいである。
 次が、この2年あまりの日経平均の節目の月次価格と、それをドル換算したものだ。

2020年1月:コロナショック前——– 2万3205円:2万
1234ドル(1ドル=109.28円)
2020年3月:コロナショック時——-1万8917円:1万7631
ドル(1ドル=107.29円)
2021年9月:バブル後最高値——–2万9452円:2万6723
ドル(1ドル=110.21円)
2021年12月———2万8791円:2万5341ドル(1ドル=
113.61円
2022年5月———2万7279円:2万1167ドル(1ドル=
128.87円)

 どうだろうか? 2020年1月の月次株価と2022年5月の月次株価は、ほぼ変わっていない。ばかりか、わずかに下回っている。
 これでは、日本市場の売買の7割を占める海外投資家が日本株を買う旨味はない。日本人も、今後、円安が進むのは確実なので、株投資は大きなリスクがあると考えるのが自然だろう。

 

今後の焦点はQTがどう進んでいくのか?

 現在の株価上昇が、各国の経済・金融政策によるバブルだとわかっているので、今後の焦点は、始まったQTがどのように進行し、いったいいつ終わるかだ。
 FRBは、この5月に異例の0.5%の利上げに踏み切った。これに続き、6月、7月にも同幅の利上げの可能性を示唆してきている。インフレが頭打ちになれば次の9月のFMOC(連邦公開市場委員会)会合からは利上げ幅を0.25%に戻すと観測されているが、それは9月になってみないとわからない。
 一方、資産圧縮の量的引き締め(QT)のほうは、9月からは強化される。アメリカ国債の削減上限は当初の300億ドルから600億ドル(MBSを含めると950億ドル)に引き上げられることが決まっている。
 現在、FRBの総資産は約9兆ドルに達しており、これをコロナ禍前の約4.1兆ドルに戻すことが求められている。
 となると、このペースでは、単純に計算して4年はかかる。しかし、これを急げば、インフレは抑えられても景気が大幅に後退してしまう可能性がある。
 ただでさえ停滞している景気を、これ以上は冷やせない。FRBはあまりにも難しい舵取りを迫られている。
 ところが、日本はまったくノーテンキだ。日銀はもはや破れかぶれ、どうなってもいいという感じで、量的緩和を続けている。続けないと株価暴落ばかりか、財政破綻を招きかねないからだ。

 

ウォール街でも悲観的観測が主流

 株投資は長期が基本という。多くの投資家にとって、市場全体のインデックスに投資し、それが経済成長によって上がっていくのを待つ。つまり、「バイ・アンド・ホールド」方式が基本という。
 しかし、これは20、30年先を見据えた投資だ。老後に備える中高年投資家、短期的に資金を得たい投資家にとっては、いまの市場はリスクが大きいのではなかろうか。
 先日の『ビジネスインサイダー』は、「株価はどこまで下がるのか。年初来の低迷を予測的中させたヘッジファンドの結論は5月末より78%下落」という記事を載せていた。 
 この記事の核心部分を、以下、引用して、本稿の結びとしたい。
《過去3度の市場暴落を予測してきた米金融大手モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト兼最高投資責任者マイク・ウィルソンは、S&P500種株価指数が2022年第2四半期(4~6月)末までにさらに14%下落すると予測する。
 また、著名エコノミストのデイビッド・ローゼンバーグの予想はもう少し下落幅が大きく、17%下落して3300まで低下するとみる(いずれも5月第4週の予測で、同時期のS&P500種指数は4000を若干下回る水準で推移)。
 あるグローバルマクロヘッジファンドのトップによる予測はさらに大胆な内容だ。米クレスキャット・キャピタル創業者兼最高投資責任者のケビン・スミスは最新の分析レポート(5月29日付)で、株価が現在の水準からさらに78%下落し、前回のスタグフレーション(=1970年代に起きた2度の石油危機とそれに続く時期)のようなローマルチプル(=企業のバリュエーションが低水準の状態)に落ち込む可能性があると指摘する。》


(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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