連載815  デジタル庁ができてもデジタル化できず。 「デジタル後進国」はいつまで続く (上)

連載815  デジタル庁ができてもデジタル化できず。
「デジタル後進国」はいつまで続く (上)

(この記事の初出は6月21日)

 本当に情けないが、日本はいつまでたっても「デジタル後進国」から抜け出せない。デジタル庁ができてすでに10カ月が経つというのに、なにひとつ実現していない。いまだに、ベースになるシステム、なにをどうやるのかロードマップすらできていない。
 そんなことに嫌気がさして、すでに数多くの優秀な人材が辞めてしまった。
 デジタル庁の迷走ぶりは、日本のダメなところを全部集約していると言っていい。

 

デジタル推進委員はタダ働きのボランティア

 最近、私がもっとも驚いたのは、デジタル庁が「デジタル田園都市国家構想」推進のために、「デジタル推進委員」の募集を始めたことだ。この募集は、5月下旬から、携帯ショップの店員などを対象に段階的に始まったが、その内容を聞いてわが耳を疑った。
 募集人員は2万人。報酬なしのボランティア。その代わり、推進委員のバッチをくれるという。で、なにをするのかといえば、デジタルに疎い高齢者などにスマホやLINEの使い方を教えることだという。まさか! これでは、街でよく見かけるパソンコン教室などと同じではないか。
「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル庁の事業の柱として、岸田首相の肝いりで構想された。デジタル化の促進によって、地方が抱える人口減少、過疎化、産業空洞化といった問題を解消しようとする試みだと、これまで説明されてきた。しかし、その第一歩がこれとは、日本政府は正気なのだろうか?
 総理大臣を議長とし、牧島かれんデジタル大臣をはじめとして、各省庁の担当大臣、官僚のトップ、有識者が集まった「デジタル田園都市国家構想実現会議」が開かれている。しかし、そこでこんなことが決められているのかと思うと、底知れない脱力感に襲われる。

 

「バカなんだろうね」とネットの声

 デジタル庁設立時の際の謳い文句として、「誰一人取り残さない」ということが言われた。この「誰一人」に縛られているのかどうかわからないが、高齢者にスマホの使い方を教えることと、政府のデジタル化、DX(デジタル・トランスフォーメンション)を進めることは、まったく別の話である。
 さっそく、SNSでは批判の書き込みが拡散した。「自民党って、バカなんだろうね」から始まり、「これは悪いジョークだろうな」などと、あきれる声があふれた。「誰が無給でそんなことをやるのか」「オリンピックでもただボラを集めたけど、今度はゼッタイ無理」という声もあった。たしかに、こんな無給ボランティアに応募する者などいないだろう。
 岸田政権は経済オンチの集まりと言われる。しかし、それにしても、ここまで常軌を逸した政策が打ち出されるのはなぜなのだろうか?
「もう日本は終わった」「アホくさ」と書き込まれても、致し方ないだろう。

 

登録してもマイナンバーカードが使えない

 さらにもう一つ、私が驚いたことがある。
 それは、マンナンバーカードがいつまでたっても機能しないばかりか、使うと損をしてしまうことがわかったことだ。
 マイナンバーカード利用の促進は、デジタル化促進の大きな柱の一つである。コロナ禍の給付金の支給も、マイナンバーカードが国民に行き渡っていればスムーズに行えた。その反省もあり、政府は昨年10月からマイナンバーカードを保険証として使えるようにするキャンペーンを始めた。
 そのためには、専用サイト「マイナポータル」から自分のマイナンバーカードを登録し「マイナ保険証」にする必要がある。
 そこで、私はさっそく登録したのだが、これが使えないのだ。現在、私が定期的に検査を受けているクリニックでは、いまだにマイナンバーカードを受け付けていない。
「申し訳ありません。まだシステムの導入ができていないので、以前通り、保険証をお願いします」と言われてしまうのである。
 NHKの調査報道によると、今年の5月末時点で、マイナンバーカードを保険証として利用できる医療機関は全体の19%程度にすぎないという。
 そればかりか、2022年4月以降に「マイナ保険証」を使うと、医療費が高くなるという馬鹿げたことが発生した。これは、厚労省が「マイナ保険証」への対応を促すために、「マイナ保険証」を利用した場合の診療報酬を引き上げたために、それに比例して患者の負担額が増えたからだという。その額、3割負担の患者の場合、初診で最大21円。これでは、マイナンバーカードが普及するわけがない。
 日本はいったいなにをやっているのだろう。

(つづく)

この続きは7月22日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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