連載820  ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓 (中)

連載820  ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓 (中)

(この記事の初出は6月28日)

 

日本よりはるかに豊かな北欧国家

 フィンランドといえば、いまでは「世界一幸福な国」として、日本でも有名だ。国連が発表する『世界幸福度報告書』では、5年連続1位に選ばれている。
 しかし、この幸福な国は一朝一夕でなったわけでなく、近現代史において特筆すべき戦争を経てできあがったのである。
フィンランドと聞いて、ムーミン、サンタクロース、オーロラ、サウナ、マリメッコなどを思い浮かべる人が多いと思うが、つい数年前までの私もその1人で、北欧にはあまり興味がなかった。それが、娘がフィンランド男性と結婚してしまったので、この国のことを深く知ることになった。
 首都ヘルシンキは、数ある世界の首都のなかでも素晴らしい街の一つだ。
 フィンランドの1人あたりのGDP (2021年度のIMF統計に基づく名目ベースの人口1人当たり当たりGDP)は5万4008ドル。日本は3万9340ドルだから、はるかに豊かな国である。
 ちなみに、ロシアは1万2198 ドルで、ウクライナはわずか4828ドル。欧州でも最貧国のウクライナを、1人あたりのGDPが約3倍のロシアが侵攻するのは、完全に弱いものイジメとしか言いようがない。
 しかも、ロシアはウクライナの工業地帯である東部2州を完全に奪いつつあるのだ。

 

スウェーデン人にもロシア人にもなれない

 フィンランドの国土は、日本よりやや狭い33.8万平方キロで、人口は日本の約21分の1の約553万人。よって、人口密度は極端に低く、国土のほとんどは森と湖。しかも、北部のラップランドは北極圏に位置し、冬の間は雪に覆われ、昼間は短い。
 こんな国から領土を奪おうというのだから、ソ連のスターリンは権力と野望の塊だったと言うほかない。プーチンはスターリンの再来という見方があるが、私も同感である。
 フィンランドの悲劇は、ロシアの隣国であり、国境を約1300キロにわたって接しているという地政学的な要因がすべてと言っていい。
 フィンランド冬戦争までのフィンランドの歴史をざっとたどると、中世におけるフィンランドは、約600年間スカンジナビア半島を支配していたスウェーデン王国の統治下に置かれていた。その後、スウェーデン王国とロシア帝国がバルト海の覇権を巡って争い、スウェーデン王国が負けると、1809年からロシア帝国の支配下に入った。
 このロシア支配は、1917年のロシア革命まで続いた。
 フィンランド人のアイデンティを確立したとされる民族叙事詩『カレワラ』は、ロシア帝国支配下の1835年に出版された。そのなかに、「われわれはスウェーデン人には戻れない。しかしロシア人にもなれない。そうだフィンランド人でいこう」という一節がある。
 これが、現在まで続くフィンランド人の民族意識の原点である。

 

ロシアと欧州の大国との緩衝地帯

 中世から近代にかけて、スウェーデンとロシアがフィンランドを巡って対立したように、いま、ロシアはフィンランドをめぐってNATOと対立している。ウクライナも同じだ。
 第二次大戦以前は、ロシア(ソ連)は、フィンランドを巡って当時の欧州の大国となったナチスドイツと対立した。つまり、フィンランドは常に、ロシアと欧州の大国との緩衝地帯だったのである。
 これは、ウクライナの地政学的な状況とまったく同じである。ウクライナはロシアと欧州の大国との緩衝地帯である。ただし、フィンランドのほうがロシアに対する危険度は高い。
 なぜなら、ロシア帝国の帝都であったサンクトペテルブルクとフィンランドの首都ヘルシンキとは380キロほどしか離れていないからだ。サンクトペテルブルクは、プーチンの出身地である。
 フィンランド冬戦争は、このサントペテルブルグとフィンランド国境の距離が近すぎるということで、ソ連が因縁をつけたことが原因である。



(つづく)

この続きは7月29日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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