連載828 ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓③ (中1)
(この記事の初出は6月30日)
周囲の状況からドイツの力を頼った
それにしてもなぜ、フィンランドはドイツの力を頼ったのか? それは、1940年の半ば過ぎの欧州の状況を見れば、仕方ないと言えるだろう。
フィンランドは冬戦争以後、来たるべき次のソ連戦に備えて軍事力の強化を図っていいた。そんななか、ドイツ軍は北はノルウェー、デンマークに侵攻し、西はオランダ、ベルギー、フランスを征服し、欧州の覇者になっていた。英国は孤立し、ドイツとの間で「バトル・オブ・ブリテン」を戦っていた。一方、ソ連はポーランドの東半分を占領し、バルト3国も併合して、再びフィンランドを狙おうとしていた。
ここでフィンランドの周囲を見渡してみると、西隣は敵のソ連、東隣は中立を頑なに守るスウェーデン、南はソ連に占領されたバルト3国で、ドイツ以外八方塞がりという状況だったのである。
1940年8月、フィンランドはドイツと秘密協定を結び、軍事経済援助を受ける代わりに、領土内へのドイツ軍の駐留および領内通過を承認した。これにより、フィンランド軍の軍備はドイツ製となり、国内世論も、孤立無援でソ連と戦うより、ドイツと共同すべきというムードに変わったのだった。
失った領土を回復後は進軍をやめる
継続戦争において、フィンランド軍は快進撃を続けた。冬戦争のときと違って、フィンランド軍は数的にソ連軍より優位だったからだ。独ソ戦の開始によって、対フィンランド戦線に割り当てられていたソ連軍部隊は、対ドイツ戦用に転用されて、国境地域は手薄になっていたのである。
7月10日、フィンランド軍はラドガ・カレリアで攻勢を開始し、すぐに1939年の国境を回復した。続いて、8月10日、カレリア地峡への攻勢を開始し、8月29日に中心都市ヴィープリを奪回すると、8月31日に1939年の国境に到達した。
しかし、これ以後、フィンランドはドイツからの強い要請があっても、ソ連領内にほとんど軍を進めなかった。ドイツはレニングラードを包囲し、フィンランド軍にカレリア地峡からレニングラードを攻撃することを求めたが、マイネルヘイム元帥はのらりくらりと、これを交わした。
フィンランド政府は、ソ連を刺激すぎることを恐れ、さらにじきに厳しい冬が訪れ、戦線が膠着することを知っていた。
分岐点となったスターリングラード攻防戦
1942年暮れ、冬将軍がやってくると、ソ連でのドイツ軍の攻勢は止まった。モスクワまであと数キロまで迫ったドイツ軍は、ナポレオン軍と同じ轍を踏んで後退せざるをえなくなった。
同時期、日本が真珠攻撃によって参戦し、これを受けてアメリカも参戦。第二次大戦は新しい局面に入った。
フィンランドは、独ソ戦を戦うドイツ軍の動きを見ながら、ソ連との旧国境線の間に再び防衛線を構築し、その後2年以上ソ連軍とにらみ合いを続けることに専念した。ソ連もフィンランド戦線が動かないのを見越して、持久戦体制をとった。
1942年夏、ヒトラーは「バルバロッサ作戦」の失敗を踏まえて、ソ連南部を攻略し、コーカサスの油田地帯を奪う「ブラウ作戦」を開始した。この作戦の終末地点、スターリングラード(現ヴォルゴグラード)でドイツ軍が敗北することで、第二次大戦の帰趨は決まった。
ここでは史上最大の市街戦が行われ、その規模はウクライナ戦争のマリウポリ市街戦をはるかに超えていた。
1943年2月2日、食料と弾薬が尽きたドイツ軍の司令官パウルスはヒトラーの命令に反して降伏を決意し、生き残ったドイツ兵士約10万人がソ連側に投降、降伏した。
このスターリングラード攻防戦による死傷者は、ドイツ側が約85万人、ソ連が約120万人、計200万人前後とされ、これは歴史上記録されたどんな市街戦でもありえなかった数だった。スターリングラードの街は瓦礫の山と化し、開戦前に約60万人いたとされる住民は、戦争終結時点で1万人弱にまで激減していた。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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