連載832  ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓③ (完)

連載832  ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓③ (完)

(この記事の初出は6月30日)

 

ソ連が崩壊したようにロシア連邦も崩壊

 

 いまのロシア軍は、フィンランド冬戦争でフィンランド軍と戦って敗走したソ連軍と同じだ。組織化されていても戦略・戦術に長けた指揮官は少なく、士気も低い。
 現在の東部2州への攻勢は、単に兵力と武器の差によるところが大きく、長引く戦争で消耗したウクライナ軍の抵抗力が弱まっているだけだ。
 今後、米英の武器と物資の補給が行き渡れば、ウクライナ軍は反転攻勢するだろう。そうして、ロシアの敗戦が濃厚になれば、その先にあるのは、ロシアの衰退であり、連邦崩壊である。
 プーチン大統領が求心力を失い、モスクワの政情が不安定化すれば、それはたちまち、ロシア連邦内の周辺諸国に伝わり、周辺諸国の離反が始まる。
 ソ連崩壊を例に取れば、1991年、ソ連からロシア共和国を引き継いだエリツィンは、周辺国に働きかけて、ソ連大統領のゴルバチョフを権力の座から引きずり下ろした。「ソ連から主権を取り戻せ! ソ連に納税してはいけない」と説いた。
 そうして、この年の暮れ、ベラルーシとウクライナなどの指導者たちを集め、「ソ連解体」を宣言したので、ソ連は本当に崩壊してしまった。
 これと同じことが、今度はプーチンのウクライナ戦争の失敗によって起こると考えられる。ロシア連邦の崩壊だ。


ロシアから離脱したカザフスタン

 ソ連崩壊後、もともとは欧州に属していたバルト3国はEU、NATOに入ってロシアとは訣別したが、そのほかの国は、経済的あるいは安全保障的な理由から、今日までロシア依存を続けてきた。多くの国は、安全保障をロシアに依存し、旧ソ連諸国でつくる「集団安全保障条約機構」(CSTO)に加盟してきた。しかし、いまやロシア軍は弱くて、まったく頼りにならない。
 すでに、中央アジアの大国カザフスタンは、ロシアから離反している。
 今年の1月、カザフスタンでは長期独裁政権への不満とエネルギー価格の高騰から、全土にわたる暴動が発生した。慌てた政府はロシアに暴動鎮圧を要請し、ロシアから平和維持軍がやってきた。しかし、暴動が収拾に向かうと、カザフスタン政府はわずか1週間足らずで、ロシアの平和維持軍を追い返してしまった。
 カザフスタンの指導層は、いったんロシア軍を入れると、その後常駐されて支配される。そのことを知っていて、それを恐れたのである。カザフスタンの北部は工業地帯で、ロシア系住民が多い。それを口実にして、クリミア併合のようなことが起こり得ると判断したのだろう。実際、その後にウクライナで同じことが起こった。
 カザフスタンは、いまもなおロシアのクリミア併合を認めていない。ロシアのウクライナ侵攻の口実となったドネツクとルガンスクの2つの「人民共和国」も認めていない。

 

理想は崩壊したロシアを民主化すること

 現時点から言えば、このままウクライナ戦争が長引くことは確実だ。長引けば長引くほど、現在の世界の構図は続いていく。それは、西側の民主ブロックと中ロによる専制ブロックに2分され、その外側にインド、ブラジル、中東諸国などがあるという「多極化した世界」である。
 この構図は極めて不安定で、世界はジャングル化してしまう。つまり、法や秩序より、力がまかり通る「弱肉強食」の世界である。
 そうならないために、いま、米英など西側諸国は、ウクライナ援助を続けている。フィンランド冬戦争と継続戦争が起こった第二次大戦中の世界は、覇権国なしの数カ国による弱肉強食の世界だった。
 このような世界に、再び世界を戻してはならない。そうなれば、ウクライナやフィンランドのような、大国の侵略にあう国が何カ国も出現してしまう。現在の世界は、この逆を行きかけている。世界は、かつての冷戦終結時のようなアメリカの「1極世界」のほうが平和で安定する。
 はたして、ロシア連邦は本当に崩壊するのだろうか。そうなったとき、ロシアを民主国家につくり変えられるのは、アメリカだけだが、どうやらバイデン大統領はそこまでは考えていないようだ。
(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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