連載836 元首相暗殺が暗示する
このままでは日本は「誰も来ない国」になる! (上)
(この記事の初出は7月12日)
安倍晋三元首相(67)暗殺事件の衝撃は続いている。メディアや識者はあえて口にしようとしないが、この事件の背景こそが、いまの日本が抱えるもっとも深刻な問題だ。
それは、今回の暗殺犯を生んでしまった日本という国の経済衰退、それによる社会の劣化である。とくに、底辺労働者の世界は悲惨だ。さらに悲惨なのが、「技能実習生」という名の「偽装労働移民」である。
しかし、参院選挙の結果を見てもわかるように、国民も政治家もこうした実態に目をつぶり、日本が変わるべきとは思っていない。現状維持でいいと思っている。
このまま世界の変化に取り残されていけば、日本は確実に「誰も来ない国」になるだろう。
これを機に真剣に日本の現状を認識すべき
安倍晋三元首相が参院選の遊説中に銃撃・暗殺された事件は、民主主義を揺るがす凶行だと、メディアも識者も言い続けている。
しかし、その民主主義により、日本はここまで経済衰退し、社会は劣化してしまった。さまざまな問題が指摘され続けてきたにもかかわらず、それを放置・先送りし、その結果、さらに状況を悪化させてしまった。
今回の参議院選を見ても、政治家は甘い言葉を並べるだけで、国民に対して痛みのあることは一切言わなかった。この繰り返しで、日本は人口減らし続け、経済を衰退させ、つまるところ「世界に誇れる国」ではなくなってしまった。このまま、劇薬である量的緩和を続け、「新しい資本主義」という社会主義的バラマキ政策を続けて行けばどうなるか。自明なことなのに、誰もはっきりとは言わない。
安倍元首相を銃撃した犯人・山上徹也容疑者(41)は、この社会の底辺に暮らす、中年派遣労働者で、明らかに社会に恨みを抱き、1Kの自宅アパートにこもり、手製の銃をコツコツと作っていたのである。
これがどんなことなのか、私たちは真剣に考えるべきだ。安倍元首相暗殺事件は、まさにいまこそ、日本の現状を認識すべきだときが来たと私たちに教えている。
日本社会の底辺から夢が失われた
昨日の特別配信記事でも書いたが、この日本に、山上徹也容疑者のような底辺労働者はどれほどいるだろうか?1990年のバブル崩壊以来の「失われた30年」で、その数は増え続け、労働環境、生活環境も劣化する一方になってきたのは、言うまでもないだろう。
非正規雇用労働者の割合は、現在、雇用者全体の4割を占めるまでに増加。雇用者の5人に2人が非正規雇用者となっている。また、単身世帯数も増加の一途で、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、全世帯に占める単身世帯の割合は2010年に3割を超え、2040年には約4割に迫るとされている。
さらに、生涯未婚率も年々上昇を続け、2015年時点で、男性が約23%、女性が約14%となっている。こうした流れに追い打ちをかけているのが、日本経済の衰退と、それによる賃金の停滞である。
それでも、アメリカに「アメリカン・ドリーム」があるように、日本にも「ジャパニーズ・・ドリーム」があれば救われる。いくら、社会の底辺にいようと、努力、アイデア、知恵次第で、社会階層の上に行ける。夢は実現できる可能性があるからだ。
しかし、いまの日本にはそれがない。いまや、ベトナムから来た「技能実習生」も逃げ出す国に、日本はなってしまっている。
先進国(?)で1国だけ入国制限を継続
日本の底辺労働者より、さらに悲惨な労働環境にあるのが、「技能実習生」という名の「偽装労働移民」である。彼らの一部は、コロナ禍で一時帰国したが、日本に愛想を尽かしたため、戻ってこようという人間はほとんどいない。
それなのに、日本政府は、ようやく外国人の入国を緩和したと喧伝している。
この6月から、外国人の入国は、ワクチン接種の有無に関係なく、入国時のPCR検査と自主待機が免除された。また、観光客の入国を、1日2万人を上限として認めた。しかし、個人旅行客は認めず、パッケージツアーだけとしている。
G7をはじめとする先進国で、入国の人数制限をもうけている国はもうない。それなのに、日本だけが、いまだに緩いとはいえ入国制限を続けて、明らかな「鎖国政策」を取り続けている。ヒト、モノ、カネが自由に行き来するグローバル経済社会に、日本はなぜか復帰しようとしない。
コロナ禍前は、「おもてなし」をあれほど自画自賛し、外国人から愛される国、“観光立国”を国策としたのに、なぜこうまで及び腰なのだろう。早々と入国制限を全面撤廃したタイなどと比べたら、雲泥の差である。
インバウンド効果は5兆円とされたが、それが失われたまま、日本はいま、さらに貧しくなろうとしているのだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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