連載842 またも「ジェンダーギャップ指数」最下位 「L字カーブ」が示す女性が輝けない日本(完)
(この記事の初出は7月11日)
「L字カーブ」という「悲しいカーブ」
近年、女性の働き方で問題視されているのが、日本特有の「L字カーブ」である。
かつては、「M字カーブ」が問題視されたが、最近はM字の谷が浅くなり、M字カーブは解消されつつある。ところが、それに代わってL字カーブが登場したのである。
女性の正規雇用率を年代別にグラフで示した場合、M字カーブでは、20代に上昇した労働力率が出産・育児期にあたる30代に落ち込み、再び上がる様子が「M」の字に似ているため、こう命名された。
これに対して、L字カーブでは、女性の労働力率は20代後半で50%を超えてピークに達した後は一貫して下がり続ける。M字カーブのように反転せず、その曲線がアルファベットの「L」を時計回りに寝かせたかたちに見えることから、こう呼ばれるようになった。
M字カーブが解消されたことを、歓迎する向きがある。なぜなら、女性の就業率は出産・育児後も上がったからだ。しかし、その中身を見れば、「非正規雇用」が中心の低賃金労働だから、もっと問題は深刻化したのではないだろうか。
L字カーブが示すのは、正規雇用率が年齢とともに下がるということだからだ。この点でL字カーブは「悲しいカーブ」である。
多くの先進国では、女性の非正規雇用労働者の割合は、中年期に低下する男性と同じかたちを描くのに、日本の場合は、年齢とともに上昇する。
日本の女性の多くは、いまや昔ながらの専業主婦では、暮らしていけなくなっている。それなのに、働き口は非正規雇用しかなく、賃金は男性に大きく差をつけられている。
日本女性は強く恵まれているという思い込み
こんな状況なのに、日本の男性たちは、いまだに日本社会は女性にとって優しい社会だと思い込んでいる。昔ながらの「亭主元気で留守がいい」のイメージから、「日本の女性はラクだ」「日本では夫より妻が強い」などと、平気で言う。
男性タレントが「うちの奥さんには頭が上がらない」などと言うことがあるが、それを信じ込んでいるのだから、時代錯誤もはなはだしい。
こういう年配者に、ジェンダーギャップの話をしてもまるで通じない。とくに、年配の男の政治家たちには無理だとしか言いようがない。よって、日本の男女格差はいつまでたっても解消しない。
信じられないのは、男性タレントが不倫した場合、妻が世間に対して「この度は、主人の無自覚な行動により多くの方々に多大なご迷惑をおかけしました」などという“謝罪コメント”を出すことだ。こんなことは、どの国でもありえない。
話が脱線気味になったが、このような日本独特の社会のかたちが、日本の男女格差を生んでいるのは間違いないと思う。
「女性版骨太の方針2022」が決まったが
唱えた安倍元首相は暗殺されたが、「女性が輝く社会」はいまも日本政府内で続いている。
内閣府には、「すべての女性が輝く社会づくり本部」「男女共同参画推進本部」があり、6月3日には、第22回合同会議が開かれた。
内閣府のHPを見れば、そこで、なにが語られたかがわかるが、今回の合同会議で決定されたのは、「女性版骨太の方針2022」だ。
「女性版骨太の方針2022」は、次の4つの柱から成って
いる。
(1)女性の経済的自立
(2)女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現
(3)男性の家庭・地域社会における活躍
(4)女性の登用目標達成
この4本の柱の下に、次のような項目が並べられている。
・男女間賃金格差にかかる情報の開示や女性デジタル人材
育成プランの実行
・アダルトビデオ出演被害対策を始めとする性犯罪・性暴
力対策やフェムテックなど女性の健康にかかる取組の強化
・男性の育児休業取得の推進や男性が育児参画しやすくす
るためのインフラの整備
・経済界、科学技術、教育など各分野における第5次男女
共同参画基本計画の目標達成に向けた具体的な取組
いったいいつになったら、日本で「女性が輝く社会」は実現するのか。この国は、いつまでも議論、討議をするだけで、なにも実行しない。「女性が輝く社会」もその一つとしか思えない。
来年の7月、次回の世界経済フォーラム(WEF)「ジェンダーギャップ指数」(2023年版)で、はたして日本は何位になっているだろうか?
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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