連載849 米景気後退、バイデン支持率急落・・・ 2024年トランプ再選なら日本は「悪夢」に!(中)
(この記事の初出は8月2日)
サウジに石油増産を懇願するも手ぶら帰国
これまでにバイデン政権は、こと経済に関してはまったく成果を上げていない。いまや、アメリカの世論はウクライナ戦争には無関心で、経済一辺倒になっている。経済ばかりか、銃規制や人工中絶問題に対しても、バイデン政権は、世論に応えることができていない。
はっきり言って、いまのアメリカは混迷している。そんな状況に業を煮やしたのだろう、フィナンシャル・タイムズの論説委員のラナ・フォルーハーは、「アメリカはいまや、武器を使った暴動が起きる国になった。法治性は地に落ち、社会は分断され、新興国の様相を呈するようになった」とエディトリアル(7月11日付)で述べている。
こうした状況に慌てたバイデン大統領は、7月15日にサウジ・アラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に原油増産を懇願した。これまで、バイデン政権はサウジに対しては冷淡で、ときにお説教を繰り返してきた。それが、背に腹は変えられず、態度を一変させたのだ。
しかし、サルマン皇太子はバイデン大統領に増産の言質を与えず、大統領は「手ぶら」で帰国せざるをえなかった。
中間選挙で民主党は大幅な議席減に
このようなバイデン不人気から、懸念されるのが、11月の中間選挙だ。歴史的に、大統領初当選後の最初の中間選挙では、与党が議席を減らすことが多い。今回もそれが起こるのは確実で、しかもそれが大幅な議席減になるのではと予想されている。
これまでを振り返ると、与党の減少数は、2010年(オバマ大統領)に上院で6議席、下院で63議席。2018年(トランプ大統領)に下院で40議席、上院で2議席増加だった。
現在、上院は与野党同数、下院は民主党222議席、共和党212議席となっているが、上下院とも共和党がマジョリティになると予想されている。
アメリカでは、大統領府が予算案や法案を議会に提出する権利はない。大統領令は、予算に関して出すことはできず、予算案はすべて議会が作成することになっている。
そのため、中間選挙で、民主党が上下院双方でマジョリティを失えば、バイデン政権は自らの政策を実行することが困難になる。つまり、バイデン大統領は、就任2年で「レームダック」(死に体)となり、アメリカ政治はますます混迷する。
すでに、2024年の次期大統領選に、バイデン大統領が出馬する可能性はほぼなくなっている。なによりも、2024年にバイデンは81歳になっており、仮に再選されると任期満了時には86歳になる。
7月初めに行われたニューヨーク・タイムズの世論調査によると、バイデン大統領の高齢を懸念する声は強く、民主党支持者の64%がバイデン以外を次期大統領候補に選ぶべきだと回答している。
「もう1度やるかもしれない」とトランプ
バイデン大統領の支持率が低迷するなか、トランプ前大統領復活の気運が高まっている。
7月26日、トランプ前大統領は、首都ワシントンDCで行われたアメリカ第一政策研究所主催の会議に出席してスピーチした。アメリカ政治の伝統を破り、2021年1月20日に行われたバイデン大統領の就任式に前大統領として出席しなかったトランプは、ホワイトハウスを去って以後初めてワシントンDCを訪れた。
スピーチでのトランプ節は健在だった。彼は、11月の中間選挙で共和党が連邦議会でマジョリティとなった場合、そして2024年に政権を奪還した場合、共和党がなにに注力すべきかを熱心に語った。
そうして、自分の政治家としてのキャリアはまだ終わっていないかもしれないと、ほのめかしたのだ。
トランプは、次期大統領選への出馬について、「もう1度やるかもしれない」と述べた。「おかしくなったこの国を、元に戻さないとならないかもしれない」とも言ってみせた。折から議会では、昨年1月6日の議会襲撃事件への関与をめぐる糾弾が続いているというのに、彼はむしろそれを好機として、再び世論を自分に向けようとしている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。