連載850 米景気後退、バイデン支持率急落・・・ 2024年トランプ再選なら日本は「悪夢」に!(下)
(この記事の初出は8月2日)
民主、共和両党内部も分裂傾向にある
バイデン不人気を招いたアメリカ政治の混迷を見ていくと、民主党、共和党双方の内部が分裂状態にあることがわかる。
まず、民主党だが、バイデン大統領の不人気と高齢不安から、次期大統領候補をめぐって、左派と穏健派が激しく対立するようになった。しかし、両派とも次期大統領候補に誰を押すか決められないでいる。カマラ・ハリス副大統領の不人気も、こうした流れに輪をかけている。
この流れを決定的にしたのが、7月26日に発表されたCNNの世論調査だ。この世論調査では、「民主党支持者の75%は24年の大統領選はバイデン以外の候補に入れたい」と考えているというショッキングな結果が出た。
一方、共和党でも、次期候補がトランプ前大統領で決まりかというと、そうではない。トランプ岩盤支持層は全国の有権者の15%はいるとされるが、「それを基盤に戦うだけでいいのか」という声が出ているのだ。
まだ、公然とトランプに反旗を翻している議員は少ないが、大物のマイク・ペンス前副大統領がその動きを見せているので、注目を集めている。
「1月6日調査委員会」が与えた影響
いくらトランプに岩盤支持層があるとはいえ、その外側には、トランプ一派が共和党を「ジャック」したことを許せない層もいる。さらに、議会の「1月6日調査委員会」で次々に暴かれたトランプ前大統領の行動に、疑問を持つ人間も増えている。
議会の調査委員会は、議会乱入暴動事件に関して、トランプ前大統領自身がどの程度関与していたかを調査するもので、まだ、関与に関する決定的な証言、証拠は得られていない。
しかし、当時、大統領を警護していたシークレットサービスが組織内でやりとりしていたテキストメッセージがなぜか「いっせいに消去されていた」ということや、事件が起こっている3時間の間に、暴力収拾のための措置を、トランプが「一切行わなかった」ことが明らかになっている。
また、乱入者たちが「ペンスを吊るせ」と叫んでいた様子を写した映像は、事件直後から公開されたが、それとは別のより生々しい映像も、今回、初公開された。こうなると、共和党内部でも世論は無視できず、いまさら「2020年の大統領選の本当の勝者はトランプ」という陰謀論を支持するわけにはいかなくなっている。
実際、ペンス前副大統領のほかに、「ミニ・トランプ」と呼ばれてきたロン・デサントス、フロリダ州知事が、トランプ離れを始めている。彼はこれまで、「マスク義務化の禁止」「学校現場での同性愛カミングアウト禁止」などトランプ政策を踏襲してきたが、最近は、こうした保守ポピュリズム政策を引っ込め出したのである。
「自由、人権、民主主義」なき世界
世界的な経済低迷、インフレ、エネルギー危機、ウクライナ戦争、それに気候変動と、明日なにが起こるかわからない世界にあって、2年先のアメリカ大統領が誰になるか予想しても意味がないかもしれない。
しかし、少なくとも、アメリカは、いまもなお「自由、人権、民主主義」の砦としての超大国であることに変わりない。よって、アメリカ大統領が誰になるかで、世界情勢は大きく変わる。
現在、世界各国のリーダーは、めまぐるしく変わっている。英国とイタリアでは首相が辞意を表明し、ドイツ首相の支持率は急低下中だ。そして日本では、安倍晋三元首相が暗殺され、統一教会問題から岸田政権は支持率を大きく落とそうとしている。
そんななか、権力を維持し続け、おそらく数年後も国家リーダーの地位にいるのは、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と中国の習近平国家主席の2人だ。
ロシアも中国も「自由、人権、民主主義」という価値観が通用しない専制国家である。
ウクライナ戦争を見ていると、対ロシア経済制裁の参加国は40カ国ほどで、世界の趨勢にはなっていない。となると、もはや「自由、人権、民主主義」などというのは時代遅れで、国家利益をむき出しにした愛国ポピュリズムが世界を支配しているのではないかと思う。
もし、この流れが加速するなら、アメリカもまたその流れに巻き込まれ、トランプが再選される可能性は十分ある。しかし、それは、日本にとっては「悪夢」だ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。