連載852 「台湾有事は日本有事」は口先だけ。
日本人に本気で中国と闘う覚悟などない(上)
(この記事の初出は8月9日)
先週、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことが大きな波紋となり、いまも日本国内のザワつきは治まらない。中国は本気で怒り、ミサイルまで発射して威嚇してきたからだ。
ペロシ議長は、その後、来日して岸田首相と会談し、岸田首相はお決まりのセリフを口にした。「台湾海峡の平和と安定を維持するため引き続き日米で緊密に連携していくことを確認した」
しかし、この首相、いや日本のすべての政治家、私たち国民に、本当に台湾を助けて中国と闘う覚悟があるだろうか? 私は、とてもそうは思えない。
このまま、緊張が続くなかで、日本は漂流していくだけになるだろう。
中国ミサイルは正確に日本のEEZ内に着弾
多くの日本人、そして政治家たちも、まさか中国がミサイルまで発射するとは思っていなかったのではないか。しかし、それは単なる“希望的観測”にすぎず、中国はメンツにかけてアメリカとのチキンゲームに突入することを選んだ。
今秋に3選を控え、さらに「中国の夢」(アメリカに代わって世界覇権を握ること)を目指す習近平にとって、「引く」という選択はありえなかったと言える。
8月4日、中国が発射した9発(自衛隊発表、台湾国防部の発表は11発)の弾道ミサイルのうち5発が、日本EEZ内に落下した。その場所は、与那国島の目と鼻の先の60キロの地点であり、台湾上空を通過しての着弾だった。この状況から、中国が正確に着弾点を選んでいたのは間違いない。この点で、北朝鮮のミサイルとはまったく違っている。
今回発射されたミサイルは、射程800キロ圏内の短距離弾道ミサイルの「東風15号 」(DF15B)と「東風16号」(DF16B)とされるが、中国はすでに多数の射程2000キロを超える中距離弾道ミサイル(「東風21号」「東風26号」など)を持ち、いつでも日本本土に打ち込める状況にある。さらに、まだアメリカでは実戦配備にいたっていない「極超音速ミサイル」も所持している。
これらのミサイルを撃ち落とせる能力を日本は保持していない。いくら、アメリカの「核の傘」があるとはいえ、短中距離ミサイルに関しては、日本は“丸裸”と言っていいのだ。
台湾包囲の「軍事演習」は恒常化する
中国がミサイルを発射する前日、台湾を訪問したナンシー・ペロシ米下院議長は蔡英文総統と会談した。そうして、全世界に向けて「(アメリカの)台湾をはじめ世界中で民主主義を守るという決意は揺るがない」と表明した。
つまり、アメリカは台湾を守ると言い切ったのである。
今回の中国のミサイル発射はこれに対する直接的な反発で、先に中国が発表した台湾包囲の「軍事演習」の一環である。
これまで、アメリカは「一つの中国」(One-China Policy)を維持するとしてきたが、台湾防衛に関しては“あいまい戦略”を取ってきた。つまり、中国が台湾を武力併合した場合、武力を行使するかどうか表明することを避けてきた。
しかし、「ペロシ訪台」は「一つの中国」政策の放棄と中国は受け止めたようだ。そのため、これまでにない強硬措置に出たと言える。そのときが来たら、アメリカに武力行使させない。これが、中国の最大の目標だからだ。
いろいろな観測が出ているが、中国はいまだに軍事演習を続けている。軍事演習は今後、恒常的なものになり、またミサイル発射もありえると、一部は見ている。おそらく、この見方は間違っていないだろう。
8月8日になって、中国国営メディアは、今後も台湾海峡に設定された事実上の停戦ラインである「中間線」を越えた演習が定期的に行われると報道した。
また、今回の軍事演習は中国軍史上最初の「台湾包囲演習」だったと強調した。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。