数いるわが家のペットの中には、身体は小さいのに何に対しても恐れず、大型犬のように振る舞う雌のポメラニアンがいます。ある日私が仕事から帰ると、この犬が少し濡れていて、子どもたちにシャンプーしてあげたのか聞いても、答えはノー。変だなとは思いつつ、その後そのことはすっかり忘れていました。この犬は蓋をしたトイレの便座に飛び乗って、私が歯を磨く姿を見るのが習慣になっていたのに、なぜかピタッと来なくなってしまいましたが、この時は気にも留めませんでした。
それからしばらく経ち、先日、新しい患者さんが来院された時のこと。診察室に入ると、この女性は立ったまま窓の外を見ていました。当院の窓から見える自慢の景色を楽しんでいるのだと思い、「どうぞお掛けになって楽にしてください」と声をかけたところ、「いいえ結構です。立っているほうが落ち着くんです」との返答。話を聞くとこの患者さんは、子どものころに行った歯科医院で嫌な経験をし、大人になった今でも歯医者に行くのが恐ろしいのだと話してくれました。
治療の際、患者さんが神経質になるのは珍しいことではありません。歯医者の私でさえ、治療を受ける時は少し緊張します。そこで当院では、そういった患者さんにも安心して治療を受けていただけるように、鎮静剤を用いた治療も行っています。当日に鎮静剤を一錠服用していただき、患者さんがリラックスして治療を受けられるよう、スタッフ一同最善の注意を払います。痛みの記憶はほぼ残らないですし、本人が平気だと言っても、安全に帰宅できたかご家族の方などに確認します。
この患者さんとの会話を思い返した時、ふとうちの犬のことを思い出しました。絶対とは言い切れませんか、家族の誰かがトイレの蓋を閉め忘れた後に犬がいつものように便座にジャンプし、そのままトイレの水の中に落っこちてしまったのではと思ったのです。たった一度のこの恐怖体験のせいで、もう二度と飛び乗ろうとしなくなったのではと。これは歯の治療にも共通して言えることで、たった一度の嫌な経験が、患者さんを恐がりにさせてしまうものなのです。でもこの鎮静剤を用いる歯の治療法のおかげで、どなたも治療を先延ばしにすることなく、安心して治療を受けていただけるようになり、本当に嬉しく思います。
残念ながら私の犬がトイレの便座に飛び乗らなくなった原因を断定することはできませんが、たぶん私の推測が当たっているはずです。ですからどんなにご褒美をはずんでも、もう二度と飛び乗って来ることはないでしょう。
Waterside Dental Care
Dr. クララ・リーClara Lee, DDS
ニューヨーク大学歯学部卒業。ニューヨーク大学ブルックデール病院でチーフレジデントを経て、13年以上にも及ぶ臨床経験は、一般歯科、コスメティック、インプラントを含む。インビザライン認定医。Waterside Dental Care医院長として古山医師と共に、多くの日本人患者を治療。Dentistryをこよなく愛している。
212-683-6260
www.watersidedds.com
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