連載875 先進国から転落中の日本の「辺境、あるある」 (中1)

連載875 先進国から転落中の日本の「辺境、あるある」
(中1)

(この記事の初出は9月20日)

 

止まらない円安、対ドル下落率で一人負け

 「コロナ鎖国」によって、日本は世界からはるかに遠い国になった。とはいえ、もともと「極東」(Fareast)に位置するので、元の位置、世界の辺境に戻ったとも言える。
 ただし、位置が辺境でも、これまで通貨は安定していた。1ドル100~110円の「適温相場」が続いてきた。しかし、ここにきて、円の安全神話は単に神話に過ぎないことが判明してしまった。
 記録的な、大幅な円安である。
 それも、世界の主要通貨のなかで、ドルに対する下落率で“一人負け”の状態だ。
 年初来の主要国通貨の対ドル下落率を見ると、円は20.0%と突出している。ポンドは14.7%、ユーロは12.0%、スイスフランは6.6%、豪ドルは6.7%だ。アジアの通貨では、人民元は8.8%、韓国ウォンは13.7%である。
 日本円の下落率20.0%を超えるのは、スリランカ・ルピー、ミャンマー・チャット、ラオス・キープぐらいしか見当たらない。いずれも、破綻国家である。
 為替レートは、金利差や経常収支で決まるとされるが、それ以上に国力(=経済力)の差が大きい。日本経済の凋落が、現在の円安を招いた最大の原因だ。
 つまり、円安は“日本売り”である。日本経済の凋落が誰の目にもはっきりし、円を持つ旨味がなくなってしまった。この見方を、私はもう何年も前からしてきたが、今回はコロナ禍、世界的インフレで、それがはっきりしてしまった。

もうベトナムの技能実習生もやって来ない

 先日配信された日本農業新聞の記事『ベトナム人実習生〝日本離れ〟進む? 円安で賃金目減り…待遇に不満強く』は、衝撃的だった。想像していたとはいえ、現実に起こっていると知って、本当にがっかりである。
 「コロナ鎖国」と「歴史的円安」で、もうベトナムからの技能実習生は日本に来ないということが、これではっきりした。
 技能実習生といっても、それは名ばかりで、実際は出稼ぎ労働者である。彼らは日本で稼いで、それを母国の実家に仕送りするために、ブローカーに借金をしてまで日本に来る。しかし、日本ではもう稼げなくなった。
 ベトナム人の犯罪が最近よく報道されるが、彼らの多くは日本で食い詰めているのだ。
 コロナ禍前の2019年まで、ベトナムの海外労働者派遣数の第1位は日本だった。しかし、2021年に、台湾が日本を抜いて第1位になった。日本が「コロナ鎖国」したからである。
 そして今年、円はベトナムドンに対し、年初から20%近くも下落した。そのため、いくら日本で働いても、その収入を本国へ仕送りすると、大幅に目減りしてしまうことになった。さらに、ベトナムの最低賃金は、この7月に5.9~6.1%も上昇しており、賃金が上がらない日本で働く意味がなくなってしまったのである。
 この状況に追い打ちをかけているのが、今春、ベトナムとオーストラリアが結んだ「農業労働者の派遣・受け入れ協定」で、9月から募集が始まった。それによると、まずは年間1000人という条件付きだが、オーストラリはベトナムからの農業労働者を受け入れることになった。
 1年のうち9カ月働き、3カ月は自由行動が取れて、月給は3200~4000豪ドル(30万4000~38万円)。この賃金水準は、日本よりはるかに高い。
 これでは、もはや誰も日本に来ないだろう。
 それなのに、いまだに、保守、右派言論は、「移民反対」を唱え、“時代錯誤”を続けている。もはや、日本は「先進転落国」というより、本当に世界の「辺境国家」になってしまった。
 技能実習制度の是非はともかく、実質的にこの移民奴隷制度により、日本の農業、建設業、中小のものづくり企業、介護などの現場は、これまでなんとか成り立ってきた。とすれば、この先、ベトナム人に見放されたら、どうするというのだろうか。
(つづく)

この続きは10月20日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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