連載882 先止まらない円安とインフレの先にある 「インフレ税」と「財産税」で財産を没収される未来(下)
(この記事の初出は9月27日)
第2次世界大戦後のインフレ時と比較
すでに、世界中で亢進しているインフレにより、各国政府の債務は軽減されている。IMFなどによると、アメリカと欧州ではこの2年間で計4.5兆ドル(約650兆円)の債務が軽減されたという。その内訳は、アメリカは3.2兆ドル、欧州は1.3兆ドルだ。
過去のアメリカを見ると、インフレ税によって債務が軽減され、その結果、経済が成長したという例がある。それは第2次世界大戦後のことで、当時のアメリカは戦費拠出のために政府債務が5年間で3倍に膨らんだ。
1946年の政府債務残高は、名目GDP比の119%。これを軽減させるため、FRBは金利を抑制し、インフレ率は一時14%まで上昇し、債務は実質的に軽減された。
もちろん、この負担は国民に強いられたが、戦後復興の好景気によって負担は抑えられ、経済は成長した。
しかし、コロナ禍後の現在はどうだろうか?
第2次世界大戦後のような大規模な復興需要はあるだろうか? IMFによると、2020年の主要先進国の政府債務の名目GDP比は127%で、第2次世界大戦後の1946年の126%を上回っている。
現在、アメリカ経済はコロナ禍後の需要復活で景気は上向いてはいるが、それほどもない。日本は、いまだコロナ規制を引きずり、インフレによる個人消費の落ち込みもあって、完全に低迷している。
「預金封鎖」「新円切替」「財産税」の3点セット
インフレによる通貨価値の低下は、国民の購買力が弱まることを意味する。消費が落ち込むなかで、インフレがさらに進むと、ハイパーインフレの恐れが出てくる。
日銀の統計データによると、1934~1936年の消費者物価指数を1とした場合、第2次世界大戦後の1954年は301.8となっている。わずか18年間で物価が約300倍となったわけで、ここまで来るとハイパーインフレと呼ばれる。
歴史的にハイパーインフレの例は数多くあるが、近年では、1998年のロシアのルーブル暴落が典型例だろう。このとき、ルーブルの貨幣価値は1年で6分の1になった。
現在の日本の政府債務残高(2021年)の対GDP比は263%で、ベネズエラに次いで世界2位である。200%を超える水準は、第2次世界大戦の末期と同じだ。すでにベネズエラは経済破綻している。
終戦後、ハイパーインフレが起き、戦時に発行された国債は紙切れになった。そして行われたのが、「預金封鎖」「新円切替」「財産税」という3点セットによる国民財産の没収だった。
主に富裕層から財産を没収する「財産税」
インフレが度を超えてハイパーインフレになってしまえば、ほとんどの国民は困窮化する。前記したように、インフレ税からは誰も逃れられず、富裕層も低所得層も実質的に負担させられる。
しかし、低所得層の負担を減らし、富裕層から財産を取り上げるという政府債務の圧縮方法もある。それが、「財産税」だ。
日本で第2次大戦後に行われた財産税は、「預金封鎖」「新円切替」と同時に実施され、最高税率は90%(財産額1500万円超)だった。
現在の日本人の個々の財産状況で、このような最高課税を課すのは無理があるので、予想としては、財産4000万円以上の層から段階的に課税するのが妥当ではないかと考えられる。
たとえば、財産100億円超で税率40%なら、40億円の没収である。これはかなりの負担だが、ハイパーインフレよりはマシだ。
なぜなら、もし100倍のハイパーインフレになれば、100億円は実質的に1億円の価値にしかんらなくなってしまう。これに対して財産税40%なら、40億円を納めて60億円は手元に残る。
つまり、富裕層にとっても、一般層、低所得層にとっても、ハイパーインフレより財産税のほうがマシである。よって、ハイパーインフレの兆しが顕在化したとき、政府は財産税を課してくる可能性がある。
(つづく)
この続きは11月2日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。