連載889 どうなる円安、物価高、賃金安?
「失策」「愚策」続きの岸田内閣と日本経済の行方(中1)
(この記事の初出は10月18日)
慌てて統一教会問題に取り組む姿勢を見せる
岸田首相とその取り巻きがわかっていないのは、支持率低下の原因が、国葬や統一教会問題にあると思っていることだ。
支持率30%割れに慌てた岸田首相は、ついに重い腰を上げた。衆議院の予算委員会が開かれる10月17日の朝、官邸に永岡桂子文部科学大臣らを呼び、統一教会に対し、宗教法人法に規定されている「質問権」の行使による調査を実施するよう指示した。
「調査結果次第では解散命令の請求に発展する可能性もあります」とNHKニュースは伝えたが、はたして、それができるだろうか?
よくよく聞いてみると、単に「質問調査権」を使って調べる。それを年内に実施するというのだけの話で、このことを聞いてさらに怒りがこみ上げてきた国民も多いはずだ。なぜ、岸田首相はここまで“グズ”なのか? そして、日本が直面している問題がなにか、まったくわかっていないのか?
現在の自民党の高齢政治家たちに共通している点がある。それは、日本はこのまま続いてくと信じ切っていること。“国難”とか“危機”とか言っているが、そんなことはどこ吹く風、まったく意に介していないということだ。
物価対策がバラマキだけという「愚策」
いまの日本は問題山積だ。そのなかでいちばん大きな問題は、少子高齢化による人口減である。これが、経済衰退の最大の要因になっている。
しかし、これは一朝一夕に解決できるわけがなく、当面の最大の課題は、やはり、円安で進むスタグフレーションからどうやって国民の生活を守るかだろう。
10月3日、国会の所信表明演説で岸田首相はこう述べた。
「日本経済の再生が最優先の課題です」。そうして、「新しい資本主義の旗印の下で、『物価高・円安への対応』、『構造的な賃上げ』、『成長のための投資と改革』の3つを、重点分野として取り組んでいきます」と続け、10月末までに「総合経済対策」をまとめることを表明した。
いまさら、なんだかわからない“新しい資本主義”などどうでもいい。国民が知りたいのは、どのような具体的な経済対策するのかの一点である。
ところが、これが、まったく的を射ていない。
これまでの、ガソリン代の高騰対策としての元売りへの補助金、小麦粉の価格を抑えるための製粉会社への売り渡し価格の維持などに続いて、電気料金とガス料金も上昇を抑えるために補助金を出すというだけだ。
さらに、中小企業に対しても補助金を出すという。
要するに、税金のバラマキである。
現在、行われている「全国旅行支援」にしても、よくよく考えれば税金のバラマキである。支援、補助という言葉に騙されて、一部の国民はそれを歓迎する。しかし、支援金、補助金を出すということは、カネをばらまくという点で、金融緩和と変わりがないから。かえって価格上昇を止まらなくする可能性が強い。はっきり言って「失策」、いや「愚策」である。
一方で円を刷り、その一方で円を買う矛盾
自民党の政治家たち、そして官僚たちは、税金をなんだと思っているのだろうか? バラマキを実行するには、少なくとも財政に余裕があるか、その財源が確保できる見通しが必要だ。
しかし、政府債務が1200兆円超、GDPの約3倍にならんとするこの国のどこに、そんなカネがあるのだろうか。しかも、政府与党は、防衛費の大幅な増大を提唱している。
結局、いまの日本で政治がなにかやろうとすると、国債を発行するほか道はない。もちろん、増税という方法もあるが、もう限界である。
岸田首相は、すでに消費増税は行わないと表明しているし、物価上昇で消費が落ち込んでいるなかで増税をしたら、国民生活はもたない。となると、またもや国債を大量発行することになるが、じつはこれは増税を将来に先送りしただけにすぎない。
止まらない円安が示しているのは、日本の国力の低下である。国力の低下を招いたのは、なによりも財政赤字の拡大だ。すでに、財政赤字は限界に達しており、これ以上、国債を発行すれば、通貨価値はさらに下落するだろう。
円安が進むなか、再度の介入があると観測されているが、こんな矛盾した政策はない。なぜなら、金融緩和の続行とバラマキで円を刷り続け、マネーストックを拡大して円の価値を下げているというのに、その一方で、この円をドルで買おうというのだ。
もはや、批判する言葉すら出ない。
(つづく)
この続きは11月11日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。