連載895 円安阻止で為替介入する愚策をやめないと、 日本は英国より酷いことになる!(下)

連載895 円安阻止で為替介入する愚策をやめないと、
日本は英国より酷いことになる!(下)

(この記事の初出は10月25日)

 

アベノミクスが日本経済の体力を落とした

 大局的に見れば、円安を招いた最大の原因は、日本経済、つまり国力の衰退だ。それを助長させたのが、アベノミクスである。為替は変動相場制である以上、各国経済のファンダメンタルズが反映される。また、金利は「経済の体温」とされる。
 これをアベノミクスは無視し、デフレは貨幣的要因とする「貨幣数量説」を唱える人間たちの意見に耳を傾け、“異次元”の量的緩和に走った。そればかりか、明らかに間違っている「現代貨幣理論」(MMT)まで登場させた。
 これは、事実上、国債を中央銀行が引き受けるという禁じ手の「財政ファイナンス」である。
 こんなことをすれば、通貨の価値は下がり、インフレを招く。しかし、日銀は当座預金に付利をつけたので、市場に出る円はそれほど拡大せず、デフレが続いた。しかし、これにより、日本経済の体力はますます落ちた。
 なにしろ、際限なく国債を発行して、公的債務を拡大さてきたのだから、経済がよくなるわけがない。賃金も上がらなかった。

 

日本はこれまで放漫財政を続けてきた

 それでも、3本の矢が機能すればよかったが、量的緩和以外の2本の矢、「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」はほとんど放たれなかった。
 アベノミクスはただの「放漫財政」にすぎず、実体経済になんの効果ももたらさなかった。しかし、その事実をメディアは伝えなかった。私はそうした記事をさんざん書き、著書も出したが、ほぼ無視された。
 私ばかりではない、アベノミクスに批判的な言説を唱えた人々は、メディアで冷遇された。
 なぜ、アベノミクスは成功しているように報じられたのだろうか? それは、この間、アメリカや欧州も量的緩和(QE)を行ってきたからだ。
 しかし、コロナ禍がある程度収束して欧米が量的引締(QT)に入ると、アベノミクスによって覆い隠されてきた日本の経済衰退のベールが剥がれてしまった。
 いまもなお、「財務省は緊縮財政をやめろ。政策転換して大幅な財政出動しろ」などと言っている人間がいるが、アベノミクスもまたしかりで、これまで日本が緊縮財政だったことは1度もない。国債を発行しまくり、放漫財政を続けてきた。

 

財源の裏付けなしのバラマキに金利が高騰

 ここから、なぜ英国が、首相が辞任するほどの騒ぎになったのかを見てみたい。じつは先日、英国で起こったことは、いたって簡単だ。トラス首相が、まったく財源の裏付けがないバラマキ、つまり放漫財政をしようとしたからだ。 
 トラス首相はまず、電気・ガス料金を凍結することを打ち出した。その額は半年間で600億ポンド(約10兆200億円、1ポンド=170円換算)という巨額のものだった。さらに、ジョンソン前政権が予定していた「法人税率を2023年4月に19%から25%へ引き上げる」という政策を取りやめ、所得税の基本税率を2023年4月から1%下げるとした。
 いずれも、財源の手当がなく、国債でまかなえばいいとしたのである。
 この巨額の国債発行に市場はすぐ反応した。金利が急騰し、ポンドがドルに対して大幅に下落した。10年国債の利回りは、トラス政権発足時は2.8%だったが、一気に4.5%になり、ポンドは1ポンド1ドル(パリティ)まで下がった。株価も急落した。
 債券、通貨、株式のトリプル安となったのである。
 そのため、年金基金が最大1500億ポンド(25兆円5000億円)という巨額損失を計上し、破綻を避けるために保有している債券や株式を売却した。これで、金融市場に激震が走った。
 この事態に、イングランド銀行(BOE)は、急遽、金融引き締めを撤回し、国債を買い入れるとした。ただし、買い入れは期間限定だった。
 ここまで来てトラス首相は、やっと間違いを認め、政策を次々に撤回、最終的に辞任せざるをえなくなったのである。

(つづく)

この続きは11月21日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :