連載896 円安阻止で為替介入する愚策をやめないと、
日本は英国より酷いことになる!(完)
(この記事の初出は10月25日)
日本では市場の「ノー」が起こらない
「金利は経済の体温」という格言は生きている。金利は経済状況を反映する。ただし、「いい金利」と「悪い金利」があり、好景気のときに上がるのがいい金利で、急激なインフレや信用懸念などで上がるのが悪い金利だ。
英国の場合は、無謀な経済政策のために信用懸念が拡大した悪い金利である。つまり、市場が政府の経済政策に「ノー」を突きつけたのである。
ところが、日本では、この市場の警告による「ノー」が起こらない。それは、アベノミクスにより、日銀に国債が買い占められ、さらに2016年から「長短金利操作」(YCC:イールドカーブ・コントロール)が実施されているからだ。
日銀は、長期金利の上限を0.25%に抑えるため、金利が0.25%を超えると10年債を無制限に買い入れる「指し値オペ」(公開市場操作:Open Market Operation)を行っている。
さらに日銀はこれまでETF(上場投資信託)買いにより、株価を高値で維持し、日本の名だたる企業の筆頭株主になった。こうなると、もはや日本は資本主義による市場経済とは言い難い。国家による統制経済で、社会主義国より、その状況は酷い。
岸田政権も財源なしのバラマキを続ける
いくらなんでも、国債を財源とするバラマキ、放漫財政には限界がくる。いまのところ、金利は抑えられているが、日本経済が世界経済とリンクしている以上、インフレ下での量的緩和が長く続けられるわけがない。
市場は必ず反乱を起こす。「市場は常に正しい」というのが「効率的市場仮説」だが、これを示唆しているのが、現在の円安だ。
円安とともに、市場は金利の上昇を求めている。
岸田政権は、高騰したガソリン価格抑制のために、すでに多額の補助金を出している。その予算は3兆円を超えている。さらに今後は、電気・ガス代金抑制のための補助金も導入する「大型の経済対策」を10月いっぱいで打ち出すという。その規模は20兆円程度で、現在、調整が進められている。
さらに、コロナ禍で始められた雇用調整助成金などの支援策も継続される。また、これまで議論されてきた防衛費の増額もほぼ決まっている。2022年度予算での5兆4000億円を超える規模で、今後5年間で40兆円越えを」目指すという。以上のすべてがバラマキである。
しかし、こうしたバラマキができる財源はどこにもない。さらなる国債発行の以外にありえない。となれば、いずれ、英国以上の市場の反乱、金利の高騰を招くだろう。それを抑え込もうとさらに金融抑圧をすれば、物価高騰に歯止めがなくなるハイパーインフレになる可能性が高い。
そうなれば、国民生活は崩壊する。
30年前の英国で起こったことが日本で起きる
ジョージ・ソロスがイングランド銀行(BOE)に勝利したのは、いまからちょうど30年前の1992年ことだ。当時、英国経済は低迷していたが、ERM(欧州為替相場メカニズム)に加盟していたので、英国政府はポンドを切り下げることができずにいた。
そこに、ソロスは目をつけた。ソロスは世界中からポンドを借り集め、空前の空売りを仕掛けたのだ。この動きに、ほかの投資家たちも乗ったため、ポンドは急落し、BOEは必死にポンドを買い支えることになった。
しかし、英国の外貨準備は急減し、もはや介入だけでは無理と判断した英国当局は、利上げに踏み切った。しかし、利上げしてもポンド売りは収まらず、最終的に英国は外貨準備を使い果たし、ERM離脱するほかなくなったのである。
政府の間違いは、市場によって正されるのだ。
30年前の英国で起こったことが、いずれ舞台を移して日本で起こる可能性がある。すでに、市場経済に忠実なヘッジファンド勢は、日本国債の先物売り仕掛けている。日銀はいずれ必ず金利を上げざるをえなくなると読んでいるのだ。だからといって、彼らを「投機筋」と悪者扱いして、量的緩和を続ければ、「資本逃避」(キャピタルフライト)は際限がなくなり、インフレに歯止めが効かなくなるだろう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。