連載907 岸田政権は「脱炭素」に無理解・無策。
なぜ日本は“環境後進国”に転落したのか? (弍ノ下)
(この記事の初出は11月9日)
日本で排出権取引が始まるのは2026年
カーボンプライシングのもう一つの具体策である「排出量取引」は、すでに世界中で実行されている。
排出権取引は、「京都議定書」の第17条に定められた京都メカニズムの1つで、国や企業間で排出枠を売買する制度。定められた排出枠を超えて温室効果ガスを排出した国や企業は、排出枠が余った国や企業から排出枠を購入して、脱酸素に貢献できるというもののだ。
韓国では2015年に、中国でも2021年から稼働しており、日本だけが遅れている。現在、「GX実行会議」では、カーボンプライシングを進めるにあたって、「炭素税」と「排出量取引」の双方を組み合わせた「ハイブリッド型」にすることが決められてはいるが、国も企業もやる気が見られない。
9月に東京証券取引所で、「GXリーグ」と呼ばれる排出権取引の実証実験が始まってはいる。しかし、参加企業は、日本の二酸化炭素排出量の約4割を占める約500社だけ。政府が一定の企業に参加を義務づけるのは2026年というから、「やる気なし」と言うほかない。
いまもなお石炭火力を削減できない
炭素税、排出権取引の導入が遅々として進まないなか、もう一つの大きな問題「石炭火力の削減・廃止」も、まったく進みそうもない。
現在、岸田政権は菅政権から引き継いで、2030年度に石炭火力の全電源に占める割合を19%に縮小させる目標を掲げている。これは、現行の31%からは前進ではあるが、ドイツや英国などのG7が「30年までの段階的廃止」を宣言しているのに比べたら、まったく見劣りする。
なにしろ、「廃止」ではなく「削減」だからだ。
政府と業界関係者に取材すると、「日本には日本の事情がある」という答えがおしなべて返ってくる。つまり、政府は電力業界の事情を見て、その調整でエネルギー計画をつくっているのだ。
その結果、30年度までに旧式火力の100基を廃止するとした計画は頓挫しつつあり、現在のところ廃止計画は2カ所にとどまるうえ、なんと、新たに7カ所の稼働が計画されているというから驚く。
これでは、日本は永遠に再生エネルギーに転換でできず、「2030年47%削減」公約は達成できない可能性が高い。
「ゼロ・エミッション」を原子力に頼った
思えば、かつての日本は省エネ化が進んだ“環境先進国”だった。日本のエネルギー効率のよさは、世界から賞賛されたものだった。だから、1997年の京都「COP3」で採択された「京都議定書」は、日本が世界の環境政策をリードするものとして尊重された。
それがいまや、当事国の日本が環境問題に大きく遅れをとっているのだから、笑い事ではすまない。
なぜ、こんなことになってしまったのか?
振り返れば、日本も「エネルギー基本政策法」によって策定されたエネルギー基本計画では、「ゼロ・エミッション」(環境を汚染したり、気候を混乱させたりする廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システム)を目指していた。2010年に策定された第3次計画では、2030年に向けた目標として、「ゼロ・エミッション電源」の比率を全電源の約70%とすると明記されていた。
しかし、その電源構成は、「水力に加えて、大半を原子力でまかなう」というものだった。この原発にたよった計画が、間違いだったと言うしかない。なぜなら、不幸なことに、第3次計画が策定された翌年の2011年に、あの東日本大震災に見舞われたからだ。
(つづく)
この続きは12月9日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。