連載911 間に合うのかトヨタ
「EV大転換」はもはや確実な未来に!(下)
(この記事の初出は11月15日)
テスラに次いで躍進する中国「BYD」
テスラに対してこうだから、中国のEVに関しては、日本の自動車メーカーは完全に過小評価していた。なめていたと言っても過言ではない。
しかし、いまや中国のEV大手「BYD」(比亜迪)は、テスラに次ぐ世界第2位のEVメーカーに成長した。
かつてバカにしていた BYDの技術は高く、日本経済新聞の記事によると、BYDのEV関連特許は中国ばかりか世界中で出願・認可されており、他の自動車メーカーから注目されているという。しかも、BYDの特許をもっとも引用しているのはトヨタで103件。テスラの特許引用146件に迫る規模だというから驚く。
BYDは、近いうちに欧州主要国で新型EVを発売することを発表し、10月17日、「パリ国際自動車ショー」で新型EV 3車種を公開した。これを見た、私の知人の日本メーカーの担当者は、「うーん、これは侮れない」と、思わず本音もらした。
すでに、BYDは世界14カ国で販売されて、100万台近くを売り上げている。昨年、ノルウェーに投入されたSUV「唐EV」の現地での評判は上々だ。
以下は、2022年1月~9月の実績に基づく、「2022年EVの販売台数の予測」(英調査会社「MCオートモーティブ」トップ10である。驚くのは、中国メーカーが5社もランクインしていることだ。いくら中国が巨大市場とはいえ、日本メーカーがルノー・日産・三菱以外ランクインしていないのは、本当に情けない。
1位 米 テスラ142.3万台
2位 中国 BYD 106.0万台
3位 中国 上海汽車集団 75.0万台
4位 独 フォルクスワーゲン・グループ58.9万台
5位 中国 浙江吉利控股集団 36.7万台
6位 韓国 現代自動車 36.5万台
7位 仏日 ルノー・日産・三菱自動車32.3万台
8位 欧州 ステランティス 28.0万台
9位 中国 奇瑞汽車27.7万台
10位 中国 広州汽車集団25.5万台
水2025年市場急拡大に間に合うのか
トヨタが、「これはまずい」とEVの開発に本気になったのは、おそらく2020年ごろと推測される。しかし、前記したように、そのやり方は可能な限り既存のプラットフォームを活かし、なおかつPHVと並存させるというものだった。しかし、ロイターの記事が伝えるように、ようやく「目が覚めた」と言っていい。
その結果、昨年12月に発表した「2030年に30車種のEVを展開」を見直すことになった。
とはいえ、問題は山積だ。とりあえずは、新型BEV「bZ4X」の量産に集中し、販売数を拡大させるのが目標だが、現在のトヨタのEV販売数ランキングは世界17位である。これは、韓国ヒョンディの10位にはるかに及ばない。この差を「bZ4X」で詰められるかどうかは、まったくわからない。
さらに、新しい専用プラットフォームをつくるとともに、最新技術によりモジュール生産をするとなると、最低でも3年はかかるという。
これでは、イノベーター理論による市場規模が急拡大すると推測される2025年には間に合いそうもない。トヨタは日本に残った最後のビッグビジネスと言える。
そんな“巨人”が倒れたら、その日本経済に与える影響は計り知れない。はたして、クルマの未来がどうなるか、あと1、2年で結論が出るだろう。
(了)
【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。