連載918 防衛費増強が虚しくなる
自衛隊の絶望的な「ドローン」立ち遅れ(下)
(この記事の初出は2022年11月22日)
世界市場では中国がダントツのシェアを
現在、民生用ドローンの生産・販売は、中国が世界の70%以上を握っている。その最大手が「DJI」(ディージェイアイ)で、「DJI」は日本でもダントツの第1位である。
続くのが仏「Parrot」(パロット)、米「3DRobotics」(3Dロボティックス)である。日本は数社が乱立しているが、世界市場に占めるシェアは合計でわずか3.7%である。
この民生用の生産技術を基に、中国人民解放軍は、軍事用ドローンを大量に開発・生産し、実戦配備している。
さる11月8日から中国最大の航空ショーが、広東省珠海で開かれたが、ここでは各種ドローンのほか対ドローン兵器も披露された。
そのなかで、最大の目玉は、偵察と攻撃が一体型の最新の軍事用ドローン「翼竜3」だ。このドローンは、航続距離が1万キロを超え、ミサイルを2トン以上積めるなど、これまでの機種に比べ大幅に性能が向上している。
海洋国家でない中国は、昔から海軍力が弱く、最近になってようやく空母打撃群を持つようになった。しかし、台湾有事や南シナ海、東シナ海支配においては、アメリカの海軍力にはまだ及ばない。航空戦力でも劣っている。
そこで、ドローンなら形勢を逆転できるとして、積極的に開発に取り組んできたと言える。
ミサイルとドローンは二者択一ではない
ところが、日本の自衛隊は、これまでドローンにはほとんど関心を示さないできた。そればかりか、「ドローンなど役に立たない」という意見が主流を占め、運用実験すら拒否してきた。
元自衛隊幹部に聞くと、「背広組の官僚たちは、ドローンばかりかサイバー空間や宇宙空間すら理解せず、昔ながらの艦船やミサイルなどを増強すればそれでいいと考えてきたのです。本当にあきれますよ。戦争はどんどん変化しているのです」という話である。
また、制服組の将官クラスでも「戦場では自爆型ドローンなんかより誘導ミサイルのほう有効」という考え方が主流だったという。
ウクライナ戦争を見てもわかるように、ロシアはミサイルを撃ち込むと同時に自爆型ドローンでも攻撃を仕掛けている。
「ミサイルとドローンの二者択一ではないのです。お互いに補完し合うというのがいまの攻撃方法です。自爆型ドローンや攻撃型ドローンの利点は、敵の上空に低空で侵入し、センサーによって得た情報を後方部隊に送ったうえで、正確な攻撃ができることです。これは、ただ誘導して標的に撃ち込むだけのミサイルにはできません。」
中国は必ずドローンで攻撃を仕掛けてくる
それにしても、台湾有事、尖閣諸島有事が本当に起こったとき、中国海軍や空軍の進出を、海上自衛隊の艦船と航空自衛隊の航空戦力だけで阻止できるだろうか。この時代、艦隊同士の対決などありえない。
中国は、必ずや大量の攻撃型ドローン、自爆ドローンで攻勢を仕掛けてくる。そのとき、日本の海上自衛隊の艦船は次々に撃沈されるだろう。すでに中国からのドローンは、何度も尖閣諸島に飛来している。
ドローンにはドローンで対抗するほかないが、現状では、日本はそれができない。
また、有事となれば、中国は必ずミサイルを撃ち込んでくるが、ミサイルだけを撃ち込むという戦術はありえない。必ずドローンもセットで投入してくるだろう。
東シナ海における戦い、防衛戦を考えた場合、「ミサイルディフェンス」と「敵地攻撃能力」(ミサイルで予防攻撃あるいは反撃する)だけでいいだろうか?
東シナ海は浅い大陸棚が広がる水中ドローン、水上ドローンにとって最適な海域である。これらのドローンに空のドローンも組み合わせて、在来兵器とともに人民解放軍の侵攻を阻止すべきではないか。
(つづく)
この続きは1月9日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。