連載919 防衛費増強が虚しくなる 自衛隊の絶望的な「ドローン」立ち遅れ(完)

連載919 防衛費増強が虚しくなる
自衛隊の絶望的な「ドローン」立ち遅れ(完)

(この記事の初出は2022年11月22日)

 

防衛費増額5年で48兆円でなにをやるのか

 政府は、5年以内に防衛費をGDP比で2%以上に増額することを決めている。現在の5兆円台から年11~12兆円に引き上げ、5年間で48兆円を計上することを目標としている。この増額計画と合わせて、年末には安全保障関連の3文書が改定される。
 今回の改定の目玉は二つ。一つは、敵のミサイル発射拠点などを叩く「反撃能力」(敵地攻撃能力の言い換え)の保有とそのための長射程ミサイルの配備。もう一つは、ミサイルディフェンスの要となる「イージス・システム搭載艦」2隻の建造だ。
 そして、とってつけたように、ドローンの導入も盛り込まれるという。
 9月14日の読売新聞記事『攻撃型無人機、自衛隊に試験導入へ…島しょ防衛強化へ25年度以降に本格配備』によると、自衛隊は南西諸島の防衛のために、イスラエルの「ハロップ」やアメリカの「スイッチブレード」(Switchblade)という攻撃型ドローンを2023年度に試験導入するという。「スイッチブレード」はアメリカがウクライナに供与した自爆型ドローンで、別名「空飛ぶショットガン」である。
 しかし、これは試験導入であり、本格配備は2025年である。遅すぎないだろうか。

ミサイルよりもはるかに安くて効果的

 日本の防衛は、中国と北朝鮮の両にらみで成り立っている。その一つの柱であるミサイルディフェンスは、主に北朝鮮のミサイルを撃ち落とすことを目的としている。もちろん、有事の際に中国から打ち込まれるミサイルも迎撃しなければならない。
 しかし、いまや極超音速ミサイルまで持っている両国のミサイルを首尾よく撃ち落とすことが可能なのだろうか?
 数発程度ならできるだろうが、飽和攻撃されたらひとたまりもないだろう。
 現在「こんごう」などのイージス艦には、短・中距離の弾道ミサイルを迎撃する弾道迎撃ミサイル「SM-3」が搭載されているが、今後は、「反撃能力」として敵基地を攻撃できる「12式地対艦誘導弾」(SSM)の改良型(射程1000キロ超)を搭載する予定という。「12式地対艦誘導弾」は、三菱重工が開発・製造する国産ミサイルだ。この国産ミサイルに加えて、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」(射程1250キロ)も搭載する予定という。
 トマホーク購入に関しては、10月末に「アメリカと交渉中」といっせいに報道されたばかりである。
 ところで、トマホーク1発の値段は1~2億円と言われている。買う以上、当然、最低でも数百発になるだろう。価格を考えると、ドローンのほうがはるかに安い。自爆型ドローン「スイッチブレード」1機の価格は6000ドル(約90万円、1ドル150円換算)だ。
 トマホークも必要だが、ドローンの導入・配備を一刻も早く進めるべきではないだろうか。
 *ちなみに、アメリカから買う兵器でもっとも高いのは、「F-35A」(戦闘機)で、1機6500万ドル(247.5億円)。といこれを147機買うことになっているが、これだけで、防衛費の増額の多くが吹き飛んでしまう。

アメリカは核保有国とは直接戦争しない

 日本の防衛政策は、「アメリカによる核の傘」があるという前提でできている。しかし、今回のウクライナ戦争を見れば、アメリカは核保有国とは直接戦争をせず、武器を供与するだけである。
 しかも、ウクライナのゼレンスキー大統領がいくら懇願しても、大型の攻撃型ドローン「MQ-1Cグレイイーグル」「Gray Eagle」は供与しない方針と伝えられている。
 グレンイーグルは30時間以上の飛行が可能で、空対地ミサイル「ヘルファイア」を最大8機も搭載できる。つまり、ロシア領内を攻撃できてしまう。この点と最新の軍事技術の流出を考慮して、バイデン政権はウクライナの要求を拒否したという。
 となると、これを日本防衛に当てはめればどうなるかは、自明だろう。いくら安保条約があろうと、アメリカが直接武力を持って日本を防衛するとは思えない。最新兵器も供与してくれないだろう。

コストに見合った有効な抑止力を持つべき

 北朝鮮の核ミサイルも脅威だが、中国は射程500キロから5500キロの地上発射型の弾道ミサイル・巡航ミサイルを合わせて2000発以上も保有している。そのうえ、日本をはるかに上回る通常戦力と、最新のドローンを大量に持っている。
 いまや日本の安全保障環境は大きく変わった。それを意識すれば、ミサイルだけの防衛などにこだわらず、ドローンのような安価で効果的な兵器を一刻も早く配備すべきではないだろうか。
 専守防衛など絵空事なのだから、コストパフォーマンスを考え、もっと有効な抑止力を持つべきだろう。


(つづく)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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