滝川玲子弁護士の“遺言や財産について、今から知っておこう。賢く、遺産相続” Vol.5 遺書と、検認後見裁判所における手続き

 遺書とは、死後の財産処分の法律関係について、本人単独の意思表示を記した法的書類のことです。遺書が有効となるためには、遺言能力(18歳以上、健全な精神と記憶)、意思(詐欺・不当威圧・錯誤がない)があることが必要で、ニューヨーク州では、例外(戦争中の軍人・航海中の船員など)を除き、口頭遺言・自筆遺言は認められていません。
 遺書の署名には州法に基づく決まりがあり、ニューヨーク州では、18歳以上の利害関係のない(遺産の受取人でない)証人最低2人の署名が必要となります。後日証人調べの必要がないよう、証人が公証人の面前で署名した宣誓供述書を作成しておきます。また遺書には、誰にどの財産をどのように分配するかが書かれ、米国に所在する財産のみを対象に作成することもできます。
 共同名義の財産や口座・受益者を指定した口座・生命保険・年金保険・401(k) 退職年金など、遺書とは別に分配される財産もあります。
 遺書によって、法定相続人以外への遺贈、慈善団体への寄付、相続人の廃除、未成年相続人に対する後見人の指定などを明記することもできます。個人や金融機関などを、遺言執行人(ニューヨーク州ではExecutor)として指名し、財産を遺言通りに分配処理してもらいます。
 相続の執行を円滑かつ速やか、そして確実に確保するために、遺書を用意しておくことが勧められます。遺書で遺産税対策ができる場合もあります。
 検認後見裁判所(Surrogate’s Court)における手続として、遺書がある場合には検認手続(Probate)を行います。死後裁判所に遺書を提出し、有効性が確認されると、裁判所は、通常遺書で指名される遺言執行人(Executor)を遺言執行状(Letters Testamentary)をもって正式に任命し、故人の遺志に従って遺言が執行されるよう、法的な権限を付与します。
 遺書がない場合は、遺産管理状手続(Administration Proceeding)が必要です。検認裁判所に申請をして、無遺言(intestacy)の法律に従って、遺された財産を管理し分配を行う相続代理人(Administrator)を、遺産管理状(Letters of Administration)により任命してもらいます。
 財産があなたの選択する人に確実に遺されるため、信頼できる人に遺産を管理・維持・分配してもらうため、死亡に際しての経費や手続の遅れを最小限にするため、また、場合により税金対策を講じるためにも、遺書の作成は意義あるものです。
 遺書に代わるものとして、トラストの設定がすすめられる場合もあります。

※上述はあくまでも一般的な説明であり、個々のケースによって手続な どは異なりますので、必ず法律専門家に相談するようお願いします。

滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
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