連載921 ポルトガルが示す日本の未来:
繁栄を誇った国家はなぜ衰退していくのか?(中1)
(この記事の初出は2022年11月29日)
ワンコイン弁当も買えない「弁当男子」が激増
もやは“安いニッポン”は、世界中に知れ渡った。バブル時代、東京の高級ホテルのロビーで1杯1000円のコーヒーに悲鳴を上げていた欧米のビジネスマンたちが、真顔で「日本は安すぎる」というのだから時代は変わった。
安いということは、けっしていいことではない。貧しいということである。とくに給料が安いということは、貧しさの象徴だ。日本の給料では、欧米の大都市では暮らせない。
日本で欧米人が驚くことの一つに、独特の「BENTO」文化がある。日本ではどこに行っても、品数が豊富でコンパクトなおいしい「お弁当」が売られている。
しかも、それが格安だ。日本のコンビニで売られている「ワンコイン弁当」(500円)は、マンハッタンのデリカだと15ドル(1ドル150円としたら2250円)はするだろう。
しかし、最近はインフレで、ワンコイン弁当が少なくなった。580円とか、630円とか、価格が上昇している。そのため、「弁当男子」が増えているという。自分で弁当をつくって会社に持って行く若い独身サラリーマンを「弁当男子」と呼んでいる。
実際、ネットの料理サイトには、「男子弁当の簡単おいしいレシピ(作り方)が3885品! 」などとうたっているところがある。私が独身サラリーマンだったころ、弁当男子などいなかった。
本当に日本は貧しくなったと思う。日本経済の衰退は目を覆うばかりだ。
スタートアップはアメリカの20分の1
少子高齢化により、毎年、50万人以上も人口が減っている国が、経済成長するのは難しい。しかし、人口減に合わせた効率のよい社会をつくり、時代の流れに沿って生産性を高めていけば、ここまで落ち込むことはなかっただろう。
経済規模は維持できなくなくても、貧しくなることはなかったと思う。
日本経済が成長できないことを象徴しているのが、スタートアップの少なさだ。スタートアップは、将来の「GAFA」である。それが少ないということは、この国が曲りなりにも資本主義自由経済であるなら、明日の日本を創造する「担い手」がいなくなるということだ。
アメリカでは、株式市場に上場している全企業のうち、過去50年以内に設立された企業が社数で約5割を占めている。企業価値にすると75%に達する。ところが、日本は2割ほどだ。
『Japan Startup Finance2021』によると、日本の2021年のスタートアップの資金調達額は約7800億円だった。ところがアメリカは16兆円。日本の約20倍である。いかに、日本が将来に投資していないか、この数字が端的に表している。
日本人自身が、日本のスタートアップ、将来のGAFAになるかもしれない起業家たちに投資しないのだから、不動産は買われても、それ以外の投資マネーが日本に入ってくるわけがない。
ベンチャー起業に投資する投資家群(ベンチャーキャピタル)は、日本では数えるほどだ。
繁栄と貧困を分けるのは政治経済の制度
バブル崩壊後の30年余り、日本の政治は、日本が抱える最大の問題「少子高齢化による人口減少」を放置し続けてきた。冷戦が終わり、世界がグローバル化し、さらにITによるデジタルエコノミーが進展したというのに、それに適応しようともせず、「昨日と同じ明日」を続け、ガラパゴス化を加速させてしまった。
『国家はなぜ衰退するのか』(ダロン・アセモグル、ジェイムズ・Aロビンソン著 鬼澤忍訳)は、この地球上に豊かな国と貧しい国の両方が存在するのはなぜか? 不平等の原因はなにか?を解き明かした名著だ。
彼らの研究によると、その原因の説明として (1)気候、地理、病気などが経済的成功を左右するという「地理説」、(2)宗教、倫理、価値観などを国の繁栄と結びつけるという「文化説」、(3)貧しい国が貧しいのは統治者が国を裕福にする方法を知らないからだとする「無知説」 などがある。しかし、彼らはこれらをいずれも否定し、繁栄と貧困を分けるのは政治と経済における「システム」の違いだと指摘・結論した。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。