連載927 防衛費増額だけでは日本は守れない。 なぜ、日本の防衛はここまでダメになったのか?(中2)

連載927 防衛費増額だけでは日本は守れない。
なぜ、日本の防衛はここまでダメになったのか?(中2)

(この記事の初出は2022年12月13日)

 

日本の「ミサイル防衛」は機能しない

 では、そもそもなぜ敵基地を攻撃しなければならない反撃能力、すなわち、スタンドオフ・ミサイルを保持しなければならないのだろうか?
 それは、これまで整備してきた迎撃ミサイルでは、敵のミサイル攻撃を防ぎきれないからだ。
 日本の「ミサイル防衛システム」は、海上のイージス艦と地上配備型のPAC3の二段構えである。しかし、もし敵が弾道ミサイルを大量に撃ち込む「飽和攻撃」をしてきた場合、すべて撃ち落とすことは不可能だ。
 北朝鮮がどれほどミサイルを持っているかは明らかではない。しかし、飽和攻撃できる能力は持っていると考えられる。また、中国は、射程500キロから5500キロの地上発射型の弾道ミサイル・巡航ミサイルを合わせて2000発以上保有している。
 さらに、極超音速ミサイルとなると、この迎撃は難しい。
 つまり、日本のミサイル防衛システムは、もはや機能していないのだ。
 これまでの日本の防衛は、日米同盟によって、「盾」としての自衛隊のミサイル防衛システムと、「矛」としての在日米軍の空母打撃群や航空戦力などで抑止力が維持されてきた。しかし、もはやこの構図は崩れている。
 よって、攻撃される前に敵基地を叩くという、あまりに単純かつ短絡的な発想になったというわけだ。

中国に一笑に付された長射程ミサイル開発

 はっきり言って、あまりに遅れた日本のミサイル開発を、中国は笑っている。完全にバカにしている。
 防衛省の計画が、とりあえず「ひと・に」改良型の射程を1000キロ以上に伸ばし、その数が1000~1500発と判明したとき、中国メディアは、次のように論評した。
 「そのような反撃能力では、中国軍に脅威を与えることなどまったくできず、なんら抑止効果を生み出すことはできない」
 中国が一笑に付す理由は、一つに、日本国内で繰り広げられている「反撃能力」の論争がバカげているからだ。反撃能力が敵基地に限定したミサイル攻撃としたら、そんなことは無意味である。反撃能力というのは、ミサイルを発射するシステムすべて、つまり、相手国の指揮命令系統を含めて、軍用飛行場、弾薬庫、燃料貯蔵庫、レーダー施設、通信施設などの軍事機能のすべてが標的でなければ効果などないからである。
 次に、日本の武器開発能力の低さという大問題がある。日本は過去77年にわたって実戦をしていないうえ、軍事研究も行われてきていない。これでは実戦で効果が得られる武器開発などできないと、中国は見ているのだ。
 とくにミサイルにいたっては、単に射程を伸ばせばいいというものではない。何度も試射して飛行データを収集するのはもちろん、敵国の妨害電波などを防ぐ環境テストも必要だ。1000キロ以上の長射程ミサイルをテストできる大規模な陸上試験場は、いまのところ日本にはない。

(つづく)

この続きは1月23日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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