loader-image
New York, US
2025.01.13
temperature icon 2°C
2018.02.03 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

連載42 山田順の「週刊:未来地図」ペットより子供の数が少ない(上)「少子化人口減ニッポン」はこの先どうなるのか?

ネコがイヌを逆転したことがニュースに

 昨年12月22日、テレビから大新聞まで、こぞって報道したのが、「ネコがイヌを逆転」というニュースだった。これは、ペットフード協会が発表したもので、全国で飼育されているペットの数でネコが初めてイヌの数を上回ったというのである。
 ペットフード協会では、1994年以来、この調査をしており、今回の調査(推定値)では、ネコがおよそ952万6000匹、イヌがおよそ892万匹で、ネコがイヌを60万匹ほど上回ったという。これは、調査開始以来、初めてのことで、ニュースだというのである。要するにペットの主役がイヌからネコに代わったということだ。では、なぜ主役交代が起こったのだろうか? 協会の分析によると、その理由は次のようになる。

《イヌは4年前にはおよそ971万匹飼われていましたが、「集合住宅で飼えない」、「十分に世話ができない」といった理由で年々減っていき、ここ数年、推移がほぼ横ばいのネコに、ついに逆転されることとなりました。協会はイヌの減少の背景には、ブリーダーの減少も影響していると分析しています。》

 私はイヌもネコも飼っていない。私が住んでいるマンションはペットOKなので、多くの人がペットを飼っている。とくに、老夫婦2人暮らしとなると、さびしいらしく、ペットを飼っている方が多い。家内もときどき、「うちも飼いたい」と言うが、出かけること多いので、断念している。そこで、思うのが、高齢化社会となった日本で、どれくらいの人間がペットを飼っているのか? ということだ。

ネコとイヌの数が子供の数を上回る

 前記報道によると、「ネコがおよそ952万6000匹、イヌがおよそ892万匹」だから、合計すると1844万6000匹となる。
 つまり、約1845万匹のペットが家庭で飼われているわけで、2匹、3匹も飼っている家庭があるとしても、これはすごいことだ。なぜなら、日本の人口は2015年(平成27年)の国勢調査によると1億2711万人、世帯数は5340万世帯だからだ。単純に計算すると、ペット数の人口比は約6.9人に1匹、世帯比は約2.9世帯に1匹となる。なんと3世帯に1世帯はイヌかネコを飼っているわけで、こんなにペットを飼っている世帯が多い国がほかにあるだろうか?
 ご承知のように、日本はいま人口減社会になっている。死んでいく人間より、生まれてくる子供の数が少ない。昨年は約130万人が死亡したが、生まれてきた子供はついに100万人を割って約98万人になってしまった。そこで現在の子供の数はどれくらいなのか? と、子供人口を見ると、2017年(平成29年)4月1日現在における子供の数(15歳未満人口)は1571万人である(総務省統計局)。なんと、イヌとネコの数よりも300万人近く少ない。
 子供の数より、ペットのほうが多い。そんな社会があっていいのだろうか? なぜ、私たち日本人は、子供よりペットを育てることを優先するのか? そんな社会が、はたして健全だろうか?

なぜ少子化が進んだのか?本当の原因は?

子供の数よりペットの数のほうが多い社会、つまり、少子化社会になってしまった原因は、いろいろ言われている。
 たとえば、「女性の社会進出が進み、そのために晩婚化が進んだこと」「男性の経済力低下により結婚のハードルが高くなったこと」「パラサイトシングルなど、社会的に自立しない若者が増えたこと」「恋愛の自由化、恋愛至上主義が蔓延したことで見合い結婚が減少、結婚できない若者が増えたこと」「結婚したとしても晩婚のケースが多いため、多産が難しいこと」などだ。
 しかし、もっとも大きな原因は、若者の貧困化だろう。この25年間、日本では実質賃金がほとんど上がらず、そのうえ、正社員が減って非正規雇用が増えた。こんな環境下では、子育ては金銭的に大きな負担になる。各種統計によって多少の違いはあるが、出産から大学卒業までの22年間の養育費は、少なく見積もっても2000万円はかかると言われている。
 また、教育費は、文部科学省「子どもの学習費調査(平成24年度)」などによると、高校まですべて公立、大学は国立の場合で1000万円ほどかかる。ところが、幼稚園から大学まで私立で、大学は私立理系(年間)の場合だと、約2500万円もかかる。となると、養育費+教育費で、最低で3000万円はかかるわけで、非正規の生涯年収(20~64歳)が約1億2000万円(厚労省の統計)だから、とても子育てなどできないということになる。

ネコの一生70万円、イヌは119万円

 東洋経済オンラインの記事『なぜ飼い犬が減り、飼い猫が増えているのか』(2015年11月18日)に、イヌとネコの飼育費用が出ている。出元は、ペットフード協会と思われるが、記事によると。生涯の飼育平均費用は、ネコ(平均寿命14.56歳)が70.3万円で、イヌ(同14.25歳)が118.5万円である。
 本当に、情けない言い方になるが、こうしたことから言えるのは、現代の日本人は、子供を育てられない代わりに、飼育費が安くて済むペットを育てているということになる。そして、さらに実も蓋もない見方になるが、イヌよりネコを飼うの は、ネコのほうが飼育費が安いからだろう。
 同記事の中で、東京農業大学の太田光明教授は「猫は清潔好きで、犬のように散歩させる必要がない。共働きが増える一方、住宅が狭いことで受け入れられている」と語り、さらに、次のような衝撃的なことも述べている。
「現在、全国約1万1000件ある動物病院のうち、10年後には3割が廃業する」
「医療費が相対的に高い犬の飼育数が毎年50万匹ずつ減って1000万匹から500万匹へと半減すれば、採算が取れなくなる」
 前記したように、私の住むマンションではペットを飼っている老夫婦が多い。それで、ペットと散歩中の立ち話で、なぜ飼っているのかと聞くと、「子供が結婚して出て行き、なんだか寂しくなって」と、正直に言われる方が多い。しかし、この方たちは近い将来、自分たちがペットの世話ができなくなる日が来るかもしれないことを考えていない。
(つづく)

この続きは、2月5日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
 
 

column1

【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

RELATED POST