連載928 防衛費増額だけでは日本は守れない。
なぜ、日本の防衛はここまでダメになったのか?(下)
(この記事の初出は2022年12月13日)
戦争になったらすぐにタマが尽きる
もちろん、反撃能力のためのミサイル開発・整備だけが、防衛費増強の目的ではない。前記した「安保3文書」によると、スアタンドオフ・ミサイルの反撃能力の保持は「ワンノブ・ゼム」であり、さまざまな国家防衛政策、軍備整備計画が述べられている。
たとえば、戦闘を継続する能力(継戦能力)に関しては、部品不足が常態化し、整備中の機体から別の機体のために部品を外す「共食い整備」を余儀なくされる状態を2027年度までに解消するとしている。
また、燃料タンクを整備し、民間燃料タンクを借り上げる。さらに、弾薬補充を急ぎ、陸上自衛隊で約90棟、海上自衛隊で約40棟の計130棟を新設し、南西地域には補給支処を新たに設けるという。
じつは、自衛隊全体の弾薬の備蓄は、機銃や迫撃砲の弾などを含めて、現在のところ、最大2カ月分しかない。また、ミサイル防衛のためのSM-3やPAC3などは、もって数日程度という。
なんと、日本は戦争になったら2カ月も持たずに、自衛隊のタマが尽きてしまうのである。これでは、反撃能力などと言っていられる場合ではない。
それなのに、こうしたことはまったくないがしろにされ、今回の議論にもなっていない。これは、これまでの防衛予算のうち、全体の約2割にあたる約1.2兆円しか弾薬と整備に関する「維持費」に充てられてこなかったからである。
総花的で全体戦略に欠ける防衛政策
増額された防衛費の行き先を、さらに「安保3文書」から見ていくと、これで大丈夫なのかという疑問が湧いてくる。それは、あまりに総花的で、全体的な戦略思考が欠如しているからだ。 防衛費増強のこの際だからと、なんでもいいから、やりたいことが並べられているだけなのだ。
以下、産経新聞の報道から、その内容をまとめてみると、次のようになる。
海上自衛隊は護衛艦と機雷を除去する掃海艦を一元管理するため「水上艦艇部隊」に改編する。情報戦に関する能力を陸空自や海上保安庁と融合するため、既存部隊を見直し「情報戦基幹部隊」を創設。配下に「作戦情報群」「海洋情報群」「サイバー群」を置く。
航空自衛隊は「宇宙作戦群」を「宇宙作戦集団」に格上げし、配下に「宇宙作戦団」「宇宙作戦指揮群」「宇宙作戦情報隊」を置く。航空自衛隊の名称も「航空宇宙自衛隊」に改称。敵のミサイル射程圏内で情報収集するため無人機を導入し、情報収集機能強化のための「作戦情報団」も設ける。
こうして、宇宙・サイバー・電磁波など「新たな領域」での戦いを強化するための組織を改変、新設するというのだ。
さらに、常設の統合司令部を創設することも明記されている。サイバー防衛従事隊員を約2万人とし、専門部隊を約4000人に拡充する。陸上自衛隊は沖縄防衛を担当する第15旅団を増強するとともに、島嶼部の電子戦部隊を強化し、「対空電子戦部隊」を新編するというのである。
どうだろうか? ここに、日本をこうして守るという統合された戦略があるだろうか?
防衛産業の危機を象徴する三菱重工の凋落
いくら、防衛費を増強しても、それが効果的に使われなければ意味がない。現在の日本の防衛の最大の問題点は、反撃能力のためのミサイル開発が中国にバカにされるように、まともな武器開発、武器製造すらできないことだ。
日本の防衛産業は、いままさに危機的状況にある。
これは、日本の防衛産業(軍事産業)の最大手、三菱重工の凋落を見れば明らかだろう。
鳴り物入りで喧伝された国産初のジェット機「三菱スペースジェット」は、10年以上にわたって開発されたにもかかわらず、飛べないジェットになってお蔵入りしてしまった。造船においても、クルーズ船建造で何度も火災を起こし、ついには造船部門から半撤退するところまで追い込まれた。
日本の宇宙開発の要(かなめ)「Hロケット」はJAXAと三菱重工が共同開発しているが、今後の主力となる「H3」は、試験でトラブルが続き、開発は難航している。
もやは、三菱重工は、技術もノウハウもなくなったと見るしかない。これでは、実戦配備可能なスタンドオフ・ミサイルができるとはとうてい思えないのだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。