連載930 日本は再びアメリカの「防波堤」に! 反撃能力確保、防衛費増強はなぜ決まったのか? (上)

連載930 日本は再びアメリカの「防波堤」に! 反撃能力確保、防衛費増強はなぜ決まったのか? (上)

(この記事の初出は2022年12月20日)

 岸田政権の支持率はついに20%台に落ちた。防衛費増強で増税を持ち出したのが、決定的に国民の反発を買ったからである。
 それにしてもなぜ、あれほど決断ができなかった首相が、今回に限っては、断固として決断したのだろうか?
 すでに一部で指摘されているように、日本がアメリカの「属国」だからだ。今回の一連の流れは、戦後の日本がたどった「逆コース」と、まさにぴったり符合する。

 

防衛費増強、反撃能力はアメリカの意向

 岸田政権は12月16日、国家安全保障戦略(NSS)など「安保関連3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書)を閣議決定した。
 3文書の最大のポイントは、いまの日本の安保環境が「戦後もっとも厳しい」とし、相手の領域内を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」との名称で保有すると明記したことだ。これに伴い、日本は、2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる43兆円にすることがほぼ決定した。そして、岸田首相は、この防衛費増強の一部を増税でまかなうことを改めて表明したのである。
 増税! このインフレ不況の最中に、そんなことを言い出せば、誰だって反発する。案の定、増税発言は、ただでさえ落ち込んできた支持率を低下させたのは、言うまでもない。
 最低は毎日新聞の25%、時事通信は29.2%、高めに出るFNNでも37%まで落ち込んだ。もはや、内閣がすっ飛んでいいレベルである。
 ここまで統一協会問題、閣僚の不祥事、歯止めがからないインフレなどで落ち込んできた支持率を、なぜ、落ちるとわかりながら、増税にこだわったのか? あれほど決断できないと批判された岸田首相が、なぜ、防衛費増強に関してだけは即断即決できたのか?
 その答えは、もはや書くまでもない。アメリカの意向だからである。

日米双方のシナリオに沿った出来レース

 日経新聞は、12月19日、『反撃能力、日米で運用協議へ
 共同計画改定、進む軍事「一体化」』という記事を掲載した。
 この記事は、《政府は、国家安全保障戦略など安保関連3文書改定を受け、抑止力・対処力強化に向けた米国との協議を本格化させる。》としたうえで、《軍事面での日米の「一体化」はさらに進むことになる。》とし、さらに次のように述べていた。
《岸田文雄首相は16日の記者会見で「あらゆるレベルで緊密な協議を行う。日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していく」と述べた。ブリンケン米国務長官は同日の声明で「役割、任務、能力の強化を通じて同盟を近代化する日本の決意を称賛する」と歓迎した。》
 なんのことはない、日米の出来レースなのである。なにしろ、岸田首相が会見したのと時を経ずして、ブリンケン米国務長官が歓迎コメントを出している。
 すでに、事務方レベルでは、「防衛費増強」も「反撃能力の保持」も具体的に決まっており、岸田首相はそれをなぞったにすぎないと言えるだろう。「国民の責任」などという言葉まで持ち出し、自分の決断のごとく言うのはおこがましいというものだ。

 

なんのための防衛費の増強なのか?

 改めて書くまでもないが、防衛費増強による予算は、まずは、巡航ミサイル「トマホーク」の購入に使われる。トマホークは最新型で1発約2億円から3億円。500発購入というから、それほどの額ではない。ただし、これを機に日本はアメリカ軍の「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)」に完全に組み込まれることになる。その費用は総額で数兆円に達するだろう。
 敵基地攻撃のための中距離ミサイル開発にも、予算は割かれる。政府は、2026年度以降、三菱重工製造の国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」を長射程化(1000キロ以上)し、それを順次配備していくとしている。しかし、いまの三菱重工に、そんな技術力があるかはなはだ疑問だ。
 もちろん、航空機や艦船といった装備品、弾薬などの維持整備にも予算は使われる。しかし、日本の軍需産業にこれらを供給する力はないから、もっぱら輸入に頼ることになる。
 ともかく、防衛費増強は、北朝鮮、中国、そして台湾有事を意識したもので、とくに約2000発の短・中距離弾道ミサイルを保有する中国との「ミサイルギャップ」を埋めるのが目的だ。また、ICBMを開発して、米本土を射程に収めた北朝鮮に対する抑止力を強化するためでもある。
 とくに、北朝鮮だけを考えると、日本の防衛というより、アメリカの本土防衛である。そのために、日本の防衛力を強化しようということだ。


(つづく)

この続きは1月26日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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