連載932 日本は再びアメリカの「防波堤」に! 反撃能力確保、防衛費増強はなぜ決まったのか? (下)
(この記事の初出は2022年12月20日)
「チャイナ・ハウス」新設で中国に対抗
アメリカは、オバマ政権の2期目から、中国を脅威として意識するようになった。習近平政権が「中国の夢」を打ち出し、「偉大なる中華民族の復興」を唱え、アメリカの「世界覇権」に明らかに挑戦するようになったからだ。
現在のバイデン政権は、明確に中国の挑戦を退けようとしている。それは、アメリカが持つ世界覇権の防衛戦争である。
12月16日、アメリカ国務省は、中国に対する政策を調整・立案する専門部署「中国調整室」(俗称「チャイナ・ハウス」)を新設した。今後、どのように中国に対抗していくかを協議・立案する場だ。
また、連邦議会も、EUや日本などの同盟関係にある地域や国と協力し、経済的な中国包囲網を強化しようとしている。昨年成立した「国防権限法」(NDAA:National Defense Authorization Act)の改定案が、近くバイデン大統領の署名により成立する運びである。
この改正案が成立すると、半年以内に政府内に省庁横断の専門組織を設けられ、1年以内に報告書の素案をまとめる義務が政府に課せられる。
ローマ帝国の世界支配と同じ構図
国防権限法がターゲットにする中国に対して、議会が権限を与える政府内組織は、「国家安全保障会議」(NSC)や「国家経済会議」(NEC)のメンバーを中心に構成される。
まさに、ローマ帝国を支えた元老院がローマの世界支配を維持した構図と同じだ。実際、アメリカの政治家は、ローマの歴史から多くのことを学んでいる。
連邦議会は、覇権挑戦国の挑戦を退けるため、EU、日本などの地域・同盟国と協議しながら戦略を練ることを重視している。ローマが属州に税と軍役を科したのと同じだ。
対中国専門組織は、中国の動向をにらみながら毎年、更新し、3年後に最終案をまとめることになっている。
このように見てくれば、今回の日本の防衛費増強と反撃能力の確保は、アメリカとの水面下の協議によって決められたことは間違いないだろう。
バイデン政権は、中国を民主主義を脅かす権威主義の強国と位置づけ、あくまでもその力を削ぐ方針である。そのために、最近は、先端半導体規制も強化した。今後、中国投資もますます規制し、中国を孤立させる戦略に出る。
先端半導体の技術や装置をめぐる禁輸措置は、アメリカだけが先行して勝手に決めた。そして、日本に対しても追随するように強く要求してきている。
戦後の「逆コース」同じ道をたどっている
「逆コース」( reverse course)という政治用語がある。
戦後の日本における、「民主化・非軍事化」に逆行する動きを総称して、こう呼ばれた。
日本の敗戦から4年後、1949年、中国で、国民党との内戦に勝利した共産党により、中華人民共和国(レッドチャイナ)が成立した。つまり、中国大陸は全土が「赤化」してしまった。その向こうには、スターリンのソ連が控えており、冷戦構造はまさに東アジア全体に広がろうとしていた。
そのため、アメリカは、日本が共産勢力の「防波堤」になることを決めたのだ。当時のロイヤル陸軍長官は「日本を極東における反共の防波堤にすべし」と演説し、日本の再軍備を主張したのである。
日本の再軍備。それは、朝鮮戦争が勃発すると、自衛隊(警察予備隊)となって実現した。そして、朝鮮戦争に自衛隊は国連軍の補完部隊として参加したのである。
これら一連の動きは、まさに、日本の「民主化・非軍事化」を掲げたアメリカの占領政策の大転換だった。アメリカの日本占領政策の集大成は、憲法前文と第9条に凝縮した平和主義と武装解除だった。しかし、それはわずか4年で放棄せざるをえず、「逆コース」と呼ばれることになったのである。
まさにいま起こっていることは、これと同じことではなかろうか? 中国の行動原理はある程度読めるが、北朝鮮の金正恩にいたっては、なにをしでかすかわからない。ICBMが完成すれば、本気でワシントンD.C.を狙いかねない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。