連載935 次の投資先はインドとの声強まる。
中国を抜いて「世界の工場」に!は本当か? (中)
(この記事の初出は1月3日)
個人消費の急回復で脅威の成長を遂げる
では、好調というインド経済を見ていこう。
インドの統計・計画実施省(MOSPI)は昨年の11月30日、第2四半期(7~9月)の実質GDP成長率を前年同期比6.3%と発表した。これは、その前の第1四半期(4~6月)の成長率13.5%と比べると、伸び率は鈍化したが、驚異的な数字である。しかも、2020年度第3四半期(10~12月)以降、8四半期連続のプラス成長となっている。
世界がコロナ禍から回復するなかで、これほど大きな経済成長をとげた国はない。
主な金融機関や経済アナリストは、インド経済の好調の原因を、「個人消費の急回復」としている。いわゆる“リベンジ消費”で、コロナ禍のために抑えられてきた潜在的消費需要が一気に吹き出したというのだ。ここ10年ほどの間に、インドでは大量の中間層が誕生し、彼らが消費を牽引して、経済が回ってきた。それがいっときコロナ禍で抑えられたものの、また回り出したというのだ。
直近の数値では「BRICs」の盟主はインド
インド準備銀行(RBI、インドの中央銀行)は、2022年度通年の実質GDP成長率が7.0%になるとの予測を公表した。また、IMFは、2022年10月末時点で、2022年度のインドの実質GDP成長率を通年で6.84%となると予測した。
次は、IMFによるインドの実質GDP成長率の推移(2018年から5年間)を、中国と比較したものだ。
インド 中国
2018年 6.45% 6.75%
2019年 3.74% 5.95%
2020年 -6.60% 2.24%
2021年 8.68% 8.08%
2022年 6.84% 3.21%
インドは、コロナ禍になる2019年まで中国とほぼ同じように成長を遂げてきたが、コロナ禍になった2020年にマイナス6.60%と大きく落ち込んだ。しかし2021年からの回復過程では、中国を上回るようになった。
中国がゼロコロナなどでもたつくうちに、インドが中国を抜き去ったのだ。もはや「BRICs」は死語かもしれないが、いまや「BRICs」の盟主はインドかもしれないのである。
「BRICs」の2022年の第2四半期(7~9月期)の実質GDP成長率を比較すると、インドの6.3%に対し、中国は3.9%、ロシアはマイナス4.0%、ブラジルは3.0%で、いずれもインドを下回っている。とくロシアは、もはや貧しくなる一方である。
こうした数値を見て、アナリストたちはじつに単純に、「近い将来、インドが中国を抜くこともある。世界の工場はやがてインドになるだろう」などと言い出したのである。
長年中国を上回れなかったインド
インドが中国を抜いて、次の「世界の工場」になるという見方は、以前から少なからずあった。しかし、インドの経済成長率は、ここにくるまで中国を凌駕したことはない。そのため、実現するとしてもかなり先だろうと見られてきた。
ここで、1980年以降2022年までの42年間の両国の経済成長率を振り返ってみると、中国がインドをはるかに上回っている。インドの年平均は約5%だが、中国は2桁成長の年もあって年平均10%近く成長している。
1人当たりのGDPで比較してみても、インドの年平均4.4%に対し、中国は8.1%とほぼ倍の成長をしている。
つまり、この傾向が将来も続くとすると、「印中逆転」など起こりようがない。ただし、ここ2年間で逆転した成長率が続くとすれば、それは現実化する。
常に中国より下回ってきたインドの成長率だが、それが低いのかというと、そうではない。なぜなら、この42年間の年平均で、パキスタンは2.1%、バングラデシュは3.3%、インドネシアは3.3%だからだ。
つまり、インドの経済成長率はアジアでは十分に高かったのであり、それが、ここにきて加速しようとしているのだ。欧米にもいい顔をし、ロシアとも商売を続けるというしたたかな国なのだから、こうなるのは当然かもしれない。
(つづく)
この続きは2月2日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。