連載937 次の投資先はインドとの声強まる。
中国を抜いて「世界の工場」に!は本当か? (完)
(この記事の初出は1月3日)
人口ボーナス期で成長は約束されている
すでに定説化しているが、経済成長を促進させるのは人口増加である。「人口ボーナス」「人口オーナス」という言葉があるように、人口の増減は経済成長と連動する。
インドは、いま「人口ボーナス」(生産年齢人口が従属人口を大きく上回り、活発な個人消費や社会保障費の抑制によって経済が成長する)期にある。毎年、確実に人口が増えていて、今年、2023年にはインドの人口は中国を上回り世界最多になると、国連は予測している。
国連の予測によると、インドの生産年齢人口の割合がピークを迎える2020年~2030年の間に1億100万人、2030~2050年の間にさらに8200万人が生産年齢人口に加わるという。
現在、中国とインドはそれぞれ約14億人以上の人口を抱えてほぼイーブンだが、中国は今後、少子高齢化が急速に進み、人口オーナス期に入る。
それに対してインドは人口ボーナス期が続き、2050年には人口が16億人を超える。つまり、インド経済の好調さを底辺から支えているのが、この「人口ボーナス」で、インドは若い国なのである。
インド首相のモディは西側先進国では人気がないが、自国経済に対しては自信を持っており、じきにインドは西側先進国に並ぶと国民を鼓舞し続けている。
インドの独立記念日は8月15日(日本の終戦記念日)だが、2022年の式典でモディ首相は、「独立100周年を迎える今後25年でインドはさらに発展し、先進国入りをする」と宣言した。
地球温暖化がただ一つ、最大の懸念
このように好調なインド経済だが、懸念はある。
それは、インドが地球温暖化の影響をもっとも受けやすい国の一つだということだ。
2022年4月下旬、インドは猛烈な熱波に襲われ、各地で最高気温を更新した。一部の州では、最高気温がなんと43℃に達した。この気温では、家にエアコンがない限り、命取りになりかねない。
近年、インドを襲う干ばつと洪水は、農業に大被害をもたらしている。インドが温暖化による気候変動の被害を受けやすいのは、その地理的な位置による。
気温上昇は、ヒマラヤ地域の氷河湖の決壊と下流の洪水を引き起こし、そのあとに干ばつを発生させる。インドの河川は何億人もの人々のライフラインであり、この水量が不規則になったうえ、夏季のモンスーン期の降雨量が増加すれば、被害は計り知れなくなる。
また、インドは全長で7500kmに及ぶ海岸線を持っており、海面上昇は沿岸部の経済、文化、生態系に多大なリスクをもたらす。それに加えて、近年、沿岸部を襲うサイクロンは強大化している。
インド政府は2022年8月、2030年までにCO2排出量を45%削減し、非化石燃料による電力供給を50%程度にするという新しい気候変動対策を発表した。しかし、カーボンニュートラルの目標年は2070年と、世界に比べて大幅に遅い。
空気を読まないのでグローバル経済に最適
さて、最後に述べておきたいのは、時々痛感する「インド人は空気を読まないので強い」ということだ。これは、ビジネス現場の人間からよく聞く話だ。たとえば、インド人社員について、私の知人の企業人はこう言った。「能力は高いが、自己主張が強く、協調性がない。グループでやることをいやがる。いつもニコニコ笑っていて、なんでも“ノープロブレム”でポジティブだが、残業は絶対にしない」
たしかにインド人には、そういうところがある。会議ではいつも積極的に発言し、日本人のように空気を読んで発言を控えるようなことは一切ない。
彼らは、本当に楽観的かつ行動的で、なんでもかんでもスバズバ聞いてきて、おカネの話も躊躇なくする。つまり、現在のグローバル経済には最適な人々ではないだろうか。
経済・ビジネス面から見て、現在のインド人のスーパーヒーローはグーグルのCEOのスンダル・ピチャイ氏(49)だろう。超難関のインド工科大学(IIT)、スタンフォード大大学院をへて2004年にグーグルに入社し、閲覧ソフト「クローム」を世界首位のブラウザーに押し上げて、43歳でCEOの座に就いている。
グーグルだけではない。世界有数のIT企業であるマイクロソフト、IBM、AdobeのCEOはすべてインド人だ。
インドはIT人材の宝庫であり、彼らは空気などと関係なく、どんどん行動する。インド経済は今後さらに成長していくのは間違いないと、私は確信している。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。