私が歯科医になったひとつの理由は職業上患者さんの死に遭遇することはないと思っていたからです。
20年ほど前、歯科医になりたての私はアッパーウエストサイドの歯科医院で働いていました。その頃出会ったOさんは、歯科医になりたてでナーバスな私をいつも励ましてくれた、思い出深い患者さんの1人です。タバコとお酒が好きだったOさんですが、それらは歯の健康に良くありません。歯科医として、友人として、Oさんの〝悪い習慣〟を直そうと励ます私に「先生、私はタバコもお酒も大好きです。先生のおっしゃることは理解できますが、タバコもお酒もやめる気はありません」とほほ笑んだOさんを思い出します。
10年ほど前、咽頭がんと診断されたOさんはそれを機に禁煙・禁酒を始めました。手術で喉頭を取り、抗がん剤と放射線がん治療を経て健康を取り戻した彼は、その後退職し、旅行をして自由な時間を楽しんでいました。旅先から彼が送ってくれた何通ものポストカードは、心暖まる思い出のひとつです。
先月、Oさんのご家族から彼が他界したとの連絡を受けました。郵送されずじまいだった当院宛てのポストカードを発見したご家族が、連絡をしてくれたのです。彼からの最後のポストカードはシアトルからでした。文面は「旅行はもう終わりにして、近いうちニューヨークに帰るよ」
皆さん、私が診療の際、禁煙・禁酒をお勧めするのは皆さんの健康を第一に思ってのアドバイスです。Oさんとの別れのように、患者さんとさよならするのは辛過ぎます。
Waterside Dental Care
Dr. クララ・リーClara Lee, DDS
ニューヨーク大学歯学部卒業。ニューヨーク大学ブルックデール病院でチーフレジデントを経て、13年以上にも及ぶ臨床経験は、一般歯科、コスメティック、インプラントを含む。インビザライン認定医。Waterside Dental Care医院長として古山医師と共に、多くの日本人患者を治療。Dentistryをこよなく愛している。
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